僕が上京して最初の夏、ジュリアナ東京は閉店した。 閉店を伝えるテレビは、バブルの象徴がついに墜ちたことを、何度も繰り返して悼んでいた。その時僕は浪人生で、次々と報道されるバブルの終わりに怯えていた。 それまで漠然と抱いていた「先々の華々しい見通し」には、やはり何の根拠もなかったんだと思い知らされた。最初のうちは放っておけばいいと聞き流していたけれど、テレビは皆が完全に飽きるまで同じことを繰り返し放送する。 そういうのは地味に効いてくる。僕はテレビが放送するままにバブルが続くと信じ込み、テレビが放送するままにバブルが終わったと信じ込み、テレビが用意してくれた不安の鋳型に自分からすすんではまり込んだ。 適当にやっていけば何とかなるはずだったのに。 「今までがおかしかったんだ。これからまともな世の中になるよ」 困る。まともな世の中になんかなって欲しくない。せめて僕が就職するまで待ってくれないか。