第6章 『日常―中平卓馬の現在』展 [1]表現から遠くはなれて 中平卓馬の近作は果たして前章で私が結論したような「普通の写真」なのであろうか。普通であるはずのそれらの写真は私の頭から離れないし、普通の写真とは一体何なのかさえだんだんと定かではなくなってくる。中平の近作を見るに伴う生理的な痛みともいえるものに耐えながら、もう少し検証しなければならないだろう。 最後の写真集である『AdieuaX』以降、写真にも「あばよ」(※76)と告げたはずの中平卓馬はそこから新たに撮影行為を始め、黙々と自宅の周辺である横浜、川崎、世田谷など自転車で行ける範囲とその近辺を撮影しに出かけていた。そのようにして撮りためられた写真によって1997年に名古屋(中京大学 C.スクエア)で中平卓馬写真展『日常 中平卓馬の現在』(※77)が行われた。 中平にとって写真を選ぶというのはそうとう困難な作業であったようで、セレク