「本書を手に取ったあなたに最初にしてほしいこと。それは日本の地図を描くことである」という書き出しに、どきりとした。学校時代、地理は得意科目ではなかったからだ。それでもとにかく頭に浮かべたのは、天気予報でおなじみの、海を背景に日本列島の輪郭が取られたあの図だった。 ほどなく、私がそんな図を思い浮かべたことを著者がずばりと当てたのでもう一度どきりとした。どうしてわかったのか。実は、私があの日本地図をイメージしたのには、江戸時代にまでつながる理由があったのだ。 本書の冒頭で著者が指摘するとおり、地理的な正しさは、地図というものをはかる指標のひとつにすぎない。位置関係や地形以外にも、地図にはいろいろな情報や観念が示されている。なかでも日本という存在を表す図(日本図)には、それが作られた社会の状態や、そこで共有されていた世界観が映し出されている。 逆に、ある日本図が広まることによってひとつの認識が広