2014年の流行語に「ありのままで」が選ばれたことは記憶にあたらしい。それは現代社会が「ありのままでは生きづらい」ことの裏返しとも言えるだろう。本書は、東京大学東洋文化研究所の教授が、“男性装”をやめ、“女性装”を始めたことで、50代になってようやく「ありのままの自分」を見つけた、その過程と考察がまとめられている一冊である。 いわゆる“トランスジェンダー”(男性から女性、もしくは、女性から男性に、「性」を転換すること)の人の自伝的書物は少なからず存在するが、たいていは自身の半生を追った体験記である。そうした書物を手にとるのは、自分自身がセクシュアリティに関わる悩みを持っている人や、もしくはトランスジェンダーがどんな“生きモノ”なのかに興味を持つ人たちではないだろうか。 本書も、そうした筆者の体験談の数々が丁寧に記されているが、そうした個人的エピソードを超えて、心理学的、もしくは社会学的分析