多くの職業現場を 体験した20代 小説家とかお坊さんにとっては、どんな体験も肥やしになると考えて、私はさまざまな仕事に就きました。たぶん全体を知った上で仕事を選択した、というスタンスをとりたかったのでしょうね。ナイトクラブで水商売もしてみたし、土木作業もやりました。この機会にやらなければ一生しないだろうと思ったのがセールスマン。当時ワンセット二十数万円した英語教材を売るのですが、営業成績は悪くないのに売れるたびになぜかすまないような思いにとらわれる(笑)。 忘れられないのは、その英語教材を売ったある予備校生のことです。受験用には向かない教材だと感じていたので、とても申し訳なくて、私が受験の時に吹き込んで勉強した英語テープを、もう一度吹き込み直して送ったりしていました。また、広告のコピーライターもしましたが、けっこう気が塞ぎましたね。小説とは違う世界なので、骨を穿(うが)つような言葉が吐けな