『リトル・バイ・リトル』(島本理生著・講談社文庫)の巻末の原田宗典さんの「解説」より。 【「小説というのは、どうやって書いたらよいのでしょうか?」 と若き日の林芙美子は、”小説の鬼”と呼ばれた作家、宇野浩二に尋ねたという。林芙美子というのは、後に『放浪記』を書いて、広く愛される作家になった人である。宇野浩二と初めて会った時は、まだ女学生だったという。 「小説というのは、どうやって書いたらよいのでしょうか?」 この素朴すぎて感動的ですらある質問を、よくぞ口にした。さすが林芙美子、と私は思うのである。 対する宇野浩二の答えも、質問と同じくらい素朴なものだ。曰く、 「話すように書けばよろしい。これは武者小路実篤氏が祖です」 簡明にして的確に、浩二は核心を述べている。いや、大袈裟に言うのではない。話すように書く――そういう文章が書ければ、それは小説になる、と言っているのだ。 宇野浩二という人は、先