弓と禅 付(講演)・武士道的な弓道 オイゲン・ヘリゲル 角川ソフィア文庫 2015 Eugen Herrigel Zen in der Kunst des Bogenschiessens 1948 [訳]魚住孝至 編集:伊集院元郁 序文:鈴木大拙 装幀:谷口広樹 師が言った、「それが射るのです」。また「それが満を持しているのです」と。私は思わず尋ねた、「それとは誰ですか、何なのでしょうか」。 ヘリゲルが師からいったん破門され、ふたたび弓の稽古に通うようになったときのある日の場面だ。それまでの一年半ほどの弓の稽古で、ヘリゲルはいつも的(まと)を射ることしか眼中になかったのだが、師はたえず「的を中(あて)ると思わないように」と指導していた。それがヘリゲルにはまったく納得できず、師から厳しく咎められていた。ところがその日の稽古では、師が「それです」「それが射るのです」と言ったのである。 「それが