「汚物に触れるのは構わない。済んだら手を洗えばいいし、手袋をはめたっていいんです。でも、匂いだけはどうしようもない。悪臭には慣れると人はいいますが、到底慣れるものではありませんよ」 「匂いのイメージというのは鮮烈なので、その匂いを思い出すだけで食欲がなくなる。それが毎日ですから、大変です」 人間はこんなに匂いをまき散らして生きている 記者が以前、高齢者向け雑誌に所属して「老老介護」(高齢者が高齢者を介護すること)について取材していた際に、取材を受けてくれたある高齢者が口にした言葉だ。60代後半の彼はこうも言った。 「下(しも)の匂い、入れ歯の口臭、褥瘡などが原因の体臭など。他人の生活のすべてに付き沿うようになって、人間とはこんなにも匂いをまき散らして生きているのだと知りました」 彼は被介護者である実母を嫌っているのではない。むしろ傍目には、献身的に過ぎるようにすら見えた。それでも、不快な「