腕から背中にかけて彫り込まれた入れ墨が汗ばんでいた。 「もう一番、頼むわ」 頭から勢いよくぶつかっていく中年の男は、相手の力士に何度も軽く投げとばされたが、それでもどこか楽しそうな表情を浮かべていた。 中部地方の刑務所内にある土俵。投げられた男は服役中の暴力団幹部で、胸を貸した力士が所属する部屋の有力な支援者だった。 「刑務所の中はよっぽど娯楽がないのか、自分たちが慰問に行って相撲をとると、喜んでくれたよ」 20年以上前に塀の中で相撲をとったことがあるという40代の元力士の記憶は鮮明だった。慰問した理由も明快に答えた。 「日ごろから部屋への差し入れなどでお世話になっており、それへのお返しだよ。力士は男芸者でもあり、スポンサーから嫌われたら食えなくなるからね」 血なまぐさいイメージがつきまとい、社会から恐れられる暴力団組織だが、力士にとっては“共存関係”にあったことを連想させる。●●● 懲戒