土井 若いころのわたしは 「吉兆」で修行していたんです。 30歳の手前で卒業して、そのあとしばらくは 父の仕事の手伝いをしていました。 だけど料理屋で働いていると、 ほんとうの旬がわからなくなるんです。 常に走り物(時季のはじめにとれたもの)で いきますでしょう? 5月にかぼちゃを出してとか、 旬が3か月ぐらい前倒しで。 糸井 お金を出してもらいやすいのは、 そっちですからね。 土井 ですが、これではいけないと思いまして、 わたしは吉兆を出たあと、あらためて 素材について学びなおしたんです。 本当の食材を知らないことを知ったのです。 休みが来るたびに篤農家の方の畑で 収穫のお手伝いをしたり、 目利きの魚屋さんと市場に出かけ、 プロのカメラマンにお願いして、 野菜も魚も姿のままと解体写真を 撮ってもらったり。 そういうことをずいぶんやりました。 食べものの、いちばん最初を知りたくて。 糸井