電子機器に組み込まれる高密度ユニットを生産しているU工場では、熟練した作業者のスキルが顧客から高い評価を受けていた。中でも、小型化が進む製品は隙間の小さい筐体(きょうたい)内で、複雑な配線を行う必要があるため、熟練作業者の感覚と手先の器用さが生産性を確保する鍵となっていた。 このU工場では工程ごとに作業標準書が用意されており、作業の手順を明確に定めることで、品質保証の基盤を形成していた。だが、実際の生産現場は、理想とはかけ離れたものになっていた。作業標準書をそのまま忠実に守るのが難しい作業も多く、特に配線工程では、現場の熟練作業者たちから「その通りにやると無駄な手戻りが多くなる」「製品の構造と作業標準書が合っていない」といった声が上がっていたのだ。 そこでついに、U社は「越えてはならない一線」を越えてしまった。ある班の熟練作業者が「もっと効率的なやり方がある」と、作業方法を独自に変えてしま
