古代と現代は、こんなに離れているのに、遺跡や美術品は、そのままで美しいと感じることができる。同様に、「物語」を介することでもっと身近に感じることができる。納得できる不思議さやね。 「賢帝の世紀」では、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの三皇帝に焦点を当てている。塩野氏一流の、絶妙な隠喩が愉しい。 ■1 ローマの「空洞化政策」 たとえば、「空洞化対策」。パクス・ロマーナをこの言葉で表現しようとする諧謔というか、感覚は面白い。 本国は中小企業で、属州は大企業社会という感じだったらしい。資産家(元老院階級)は収益率の高い属州に流れ、その反面で本国(ローマ)がどんどん空洞化し、格差が広がっていったそうな。 で、トライアヌス帝が実施した施策は、ずばりアリメンタ(Alimenta)法、育英資金による人口の回復だそうな。今風に言うならば「子育て援助」かね。成年に達するまで、以下の育英資金が