私は広島市で生まれ、七才からは呉くれ市の親戚の家で育ちました。伯母の家はどちらかと言えば裕福な家庭でした。三年、四年と経ち、友だちもできたのですが、学校が終わってからもいっしょにいたいとは思いませんでした。何と言いますか── 生身の人間との付き合いは、私の神経には刺激が強すぎたのです。 一人でいることを私は好みました。ええ、さみしいとも思いません。本を読んだり、絵を描かいたりするのが好きな子どもでした。夏休みになると、家の近くを流れている川の上流へよく一人でいきました。自転車を漕いでいくんです。上流の上流のそのまた上流といったところまで。何をしにいくのかと聞かれますとちょっと困るのですが── 何もしないためにいくんです。本を何冊かは持っていきます。だけど目的としては、何にも考えない時間を過ごすためにいくのです。言わば、心のスイッチを切るためにです。 上流のほうへいきますと、川は谷あいを流れ