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小説「きっかけ」② - Blue あなたとわたしの本
「俺は美術の専門高校に入ったけど、大して才能がないことにすぐに気づいた。あの高校はレベルも高かっ... 「俺は美術の専門高校に入ったけど、大して才能がないことにすぐに気づいた。あの高校はレベルも高かったしな」 たしかに受験生は全国から集まっていた。日本で最初に設立された画学校で、歴史は東京芸術大学よりも古い。堂本印象や草間彌生も卒業生だ。年に一度、美術館を借りて行われる美工作品展は、そのへんの美大の展覧会を超えていたと私も思う。私たちは洋画科の生徒だった。河原の絵の才能については、わからない。感覚的に鋭い作風ではあった。佐伯祐三の画風にすこし似ていた。ただ、演技の才のほうが恵まれていることは、やはりたしかだろう。 河原は話しつづけた。 「おまえは地元の美術大学へ進み、俺も地元の普通大学を出た。覚えてるか?」 もちろん覚えてるよ、と私は苦笑した。若くはないとは言え、まだ三十九だからな──。 「どうして東京芸大を受験しなかった?」、河原は真剣な目になって私の顔を見た。「先生も勧めてた。洋画科のな
2017/09/13 リンク