ブックマーク / www.nikkei-science.com (11)

  • 神経伝達の常識を覆すニューロン表面波伝播説

    脳細胞は電気信号の形で情報を伝えているというのが定説だが,それは誤りかもしれない。ニューロンの信号は細胞膜表面を伝わる機械的な波であるとする見方を支持する結果が集まり始めた。電気パルスモデルに反する事例報告は半世紀近く前からあったのだが,これまで無視されてきた。表面波説が正しい場合,脳の働きに関する説明は大変革を迫られる。 *表面波伝播説を追究し続けた神経生物学者,田崎一二。その生涯を,孫である物理学者の田崎晴明・学習院大学教授が語る「98歳,週7日の実験」を併載。 再録:別冊日経サイエンス243「脳と心の科学 意識,睡眠,知能,心と社会」 著者Douglas Fox カリフォルニア州を拠点とするサイエンスライター。神経科学と極端気象について執筆している。 関連記事 「思考をつかさどる陰の立役者 グリア細胞」,R. D. フィールズ,日経サイエンス2004年7月号。 原題名The Brai

    神経伝達の常識を覆すニューロン表面波伝播説
  • CERNから福島へ 測定を重ね事実を紡ぐ:早野龍五

    宇宙から消えた反物質の性質をスイスで探り 福島第1原発事故で起きた被曝の実態を調べる 共通するのは,膨大な測定データから事実をあぶり出す科学の手法だ 早野龍五は,スイスのジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)で反物質を探究する国際共同実験グループのリーダーだ。だが研究者以外にとっては,福島第1原子力発電所の事故で飛散した放射性物質による「被曝を測定した先生」として記憶されているだろう。まったく異なるかに見える2つの活動に共通するのは,膨大な測定データを積み上げることで事実を見極めようとする科学者としての眼差しである。 「ここからこっちは物理関係者,こっちは福島の人の席です」。この春,東京大学を退官した早野は3月半ば,東京大学郷キャンパスの小柴記念ホールで,最終講義に詰めかけた来場者の交通整理に声を張り上げていた。来場者は定員を大幅に上回り,立ち見でも入りきれず,隣室にはテ

    CERNから福島へ 測定を重ね事実を紡ぐ:早野龍五
  • チョムスキーを超えて 普遍文法は存在しない

    子供はみな言葉を自然に覚えて話すようになる。なぜだろうか? 人は言語を習得する機構を生まれながらに備えている,つまり普遍的な文法が生得的に組み込まれている──というのが,ノーム・チョムスキーが20世紀半ばに提唱した有名な「普遍文法仮説」だ。彼は普遍文法によってすべての言語を説明できると唱え,言語学に大きな影響を与えた。しかし,この説は実証的な証拠を欠いているために疑問が呈され,実際の言語習得過程を調べた研究に基づく新たな考え方が登場している。「用法基盤モデル」と呼ばれるもので,子供は言語専用ではない一般的な認知能力や他者の意図を理解する能力を用いて言語を習得しているという見方だ。 再録:別冊日経サイエンス259『新版 認知科学で探る心の成長と発達』 著者Paul Ibbotson / Michael Tomasello イボットソンは英オープン大学の講師で,専門は言語発達。トマセロはドイツ

    チョムスキーを超えて 普遍文法は存在しない
  • 心の成長と脳科学

    子どもはどのようにして新しい能力を獲得し,成長していくのだろうか。人間の成長と発達の過程における変化を脳神経科学と心理学で解説する。家庭や学校など教育の場でも役立つテーマを満載。 日経サイエンス編集部 編 はじめに CHAPTER 1 成長過程を読む 子どもの意外な“ 脳力”  A. ゴプニック 無知に見える赤ちゃんや幼児でも 科学者の予想を上回る学習能力を持っていることが明らかになってきた。 子どもは象徴をどう理解するのか  J. S. デローチ 「あるものが他のものを表すこともある」とわかるようになるまで 幼い子どもは絵や写真などで表された象徴と物を混同してしまうことがよくある これは象徴的な思考を身につけることの難しさを示している 子どもはどのようにことばを覚えるか  G. A. ミラー/P. M. ギルディア 子どもは,わかりやすい文脈の中で新しいことばを覚えていく ことばの意味

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  • マリファナはきっぱり有害〜日経サイエンス2013年5月号より

    米国では10代の喫煙率は過去最低になっているが,マリファナを吸う者は増えており,それが有害だと思う若者もこれまでになく減っている。米国立薬物乱用研究所の未来監視プロジェクトの一部として昨年12月に公表されたデータによると,マリファナの常用が有害だと思う高校3年生はわずか44.1%で,1973年以来最低の水準だ。2012年に高校3年生の1/3以上がマリファナの使用経験があり,15人に1人が毎日吸っている理由は,このあたりにありそうだ。 10代の考え方の変化の背景には,医療におけるマリファナの利用拡大という事実があるかもしれない。1996年以来,18の州とコロンビア特別区は,成人が医師の処方に基づいてマリファナを入手することを合法化した。また昨年11月,コロラド州とワシントン州は21歳以上のすべての人に対してマリファナを合法化した最初の州となった。「医療用にマリファナ使用が広く認められたことで

    マリファナはきっぱり有害〜日経サイエンス2013年5月号より
  • 光子の逆説

    波か、粒子か? その運命は,時をさかのぼって決まるのか──。 量子力学の世界は遠く離れた粒子がテレパシーで連絡し合ったり,未来に起こる出来事が遡って過去に影響しているかのように見える奇妙な現象にあふれている。それは宇宙の始まりや巨大加速器の中といった遠い世界の出来事ではなく,ごく普通の実験室で,机の上に組み立てた装置で見ることができる。 理科の授業で,2つのスリットを通った光が干渉縞を作る実験をした人もいるだろう。あの実験が、基礎研究の進展と実験技術の向上によって、様々に進化した。そうしたダブルスリット実験の進化型によれば、光子はいったん測定されても、その測定の記憶が消されれば、いつでも干渉縞を回復する。その様子はまるで、未来の測定が過去に影響するように見える。 光子の運命はいつ決まるのか。そして因果律は破れるのか。ダブルスリット実験の新たなヴァリエーションが、現代物理学の深淵を照らし出す

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  • 疫学の手法で殺人を減らす

    疫学で使われているデータ解析手法を応用して,暴力犯罪の根的原因と最善の対策を明らかにすることができる。南米コロンビアのカリ市はこの方法によって,人口10万人あたり124人だった殺人事件の犠牲者をわずか3年で同86人に減らした。同国の首都ボゴタでは9年間で同80人から20人に減った。銃と酒に関する法規制が不可欠だった。警察の影響力を強め,若者に社会的活動の場と仕事を与えることも重要だった。現在,中南米の多くの都市が定期的に会議を開いて犯罪データを解析し,対策を計画し,その効果を評価している。 著者Rodrigo Guerrero Velasco 2012年以降,南米コロンビアのカリ市の市長を務めている。1992〜1994年にも同職にあった。1期目を務めた後は全米保健機構(PAHO)に勤務し,ゲリラと麻薬の不法栽培が横行しているコロンビアの地方に経済事業を創出するためにVallenPaz(バ

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  • ホーキングのブラックホール〜日経サイエンス2014年7月号より | 日経サイエンス

    COURTESY OF J. SCHNITTMAN NASA Goddard Space Flight Center, J. KROLIK Johns Hopkins University AND S. NOBLE Rochester Institute of TechnologY 数十年越しのパラドックスが再び 今年初めホーキング(Stephen Hawking)が「ブラックホールは存在しない」と語ったと報じられた。このとき彼が語っていたのは,私やあなたが思い浮かべるあのブラックホールではない。光を含めすべてをのみ込んでしまうご存じのあの天体は,誰もが認めるように,これまでどおり真っ黒なままだ。 ホーキングが問題にしていたのは高度に理論的な意味でのブラックホールだ。他の多くの理論家と同じく,ホーキングも物理学の中核を蝕むパラドックスを解決しようとしてきた。「ブラックホール・ファイアウォー

    ホーキングのブラックホール〜日経サイエンス2014年7月号より | 日経サイエンス
  • 細胞を支える掃除役 オートファジー

    身体の健康を保つには,細胞の健康を維持することが重要かもしれない。細胞内の環境を改善し,機能を維持するのに「オートファジー」と呼ばれるシステムが大きな役割を果たしている。オートファジーは細胞の掃除システムであり,細胞内の不要物質を捕らえて分解する。 細胞内でのオートファジーの役割は非常に幅広い。正しく機能しなくなったタンパク質や細胞小器官が細胞内にたまって問題を起こす前に,オートファジーはそれらを取り除くことができる。また,細胞が飢餓状態に陥ったときには,タンパク質などの細胞構成物質を消化し,生存に必要な栄養やエネルギーとして供給する。外部から侵入してきた病原体を直接捕らえて分解することもできるし,病原体に対する免疫応答にもかかわっている。 このようにオートファジーは細胞内のさまざまな場面に関与しているため,オートファジーの働きが悪くなったり停止したりすると,細胞は大混乱に陥り,私たちの健

    細胞を支える掃除役 オートファジー
  • マイクロキメリズム あなたの身体に潜む“他者”の細胞

    妊娠中に胎盤を通して,母親と胎児の間で互いに細胞が行き来する──これだけだったら,さほど驚くにはあたらない。胎盤を通じてさまざまな物質が行き来していることは周知の事実だ。だが,このときに行き来した細胞が,その後もずっと定着しているとなると話は別だ。実の母子といえども免疫系から見れば“他者”。母親や我が子からの細胞は人の免疫系によってすぐに排除されてしまうはずだ。 ところが,実際には成人した男性から母親の細胞が見つかったり,出産後,数十年たった女性から息子の細胞が見つかったりしている。母親由来の細胞が人の細胞とともに心臓の一部となっていた例もある。 こうした他者の細胞は,人の健康にとって良い面もあれば悪い面もあるようだ。いわゆる自己免疫疾患とされてきた疾患のなかには,体内に潜む他者の細胞が人の免疫系を刺激して生じてしまうものがあるらしい。母親由来の免疫細胞が胎児の身体に入って,胎児に

    マイクロキメリズム あなたの身体に潜む“他者”の細胞
  • 生物の形を決める遺伝子スイッチ

    S. B. キャロル(ウィスコンシン大学マディソン校) B. プリュドム N. ゴンペル(ともにマルセイユ・リュミニ発生生物学研究所) 長い間,動物どうしの形態上の差異はゲノムの違いを反映したものだと考えられてきた。だから,ゲノムを比較すれば,違いを生み出している遺伝子を突き止められると思っていた。ところが,マウスやラット,イヌ,ヒト,チンパンジーなど哺乳類のゲノムを比較してみると,持っている遺伝子はどの動物も非常に似通っていた。それぞれの動物のゲノムに含まれる遺伝子の概数(ざっと2万個ほど)や,多くの遺伝子の位置関係は1億年以上にわたる進化の過程でかなりよく保たれてきた。 遺伝子数や位置にまったく違いがないというのではない。しかし,遺伝子のリストを一見しただけでは,そのゲノムがマウスのものなのか,それともイヌやヒトのものなのかはわからない。例えば,マウスとヒトのゲノムを比較してみると,ヒ

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