複雑な脳の成り立ちや機能を理解する神経発生学において、in uteroエレクトロポレーションは強力な実験ツールだ。子宮内の胎児の脳にDNAやRNAを注入し、局所的に電気ショックを与えて細胞内に導入する手法で、導入細胞で特定の遺伝子を過剰に働かせたり、抑制したりすることが可能だ。しかしこれまで、この方法を用いてゲノム上の特定の配列に目的の遺伝子を挿入する「ノックイン」はできなかった。in uteroエレクトロポレーションでのノックインが実現すれば、全身の細胞の遺伝子を書き換える遺伝子改変動物とは異なり、発生途中の胎児脳の一部の細胞にだけ遺伝子改変を加え、それを子孫細胞にも受け継がせることができる。無数の細胞のいくつかにだけ目印をつけて分化過程を追跡観察したり、特定のたんぱく質の生体内での局在や挙動を調べたりと、細胞レベルでの様々な解析が可能になると期待される。 理研CDBの恒川雄二研究員とR
巨大で複雑な大脳皮質は哺乳類の脳の最大の特徴だ。6層構造を成す様々な種類の神経細胞はいずれも脳室付近の領域に生じる未分化型神経前駆細胞(apical progenitor:AP)から生み出される。自己複製(対称分裂)して数を増やしたAPは、あるところから非対称分裂に分裂モードを切り替えて、自己複製を続けるAPと分化へ進むIP(中間型神経前駆細胞)を生じる。さらにIPから分化ニューロンを生み出すが、時間の経過に伴って生み出す細胞種を深層ニューロンから表層ニューロンへと順次切り替えていく。このことから、神経前駆細胞には発生時間の経過を感知する仕組みがあると考えられるが、細胞の中で進む「時計」が何によって規定されているかは未だ不明だ。 理研CDBの非対称分裂研究チーム(松崎文雄チームリーダー)と名古屋大学川口彩乃准教授らのグループはマウスを用いた研究で、神経前駆細胞を1細胞レベルでトランスクリプ
顕微鏡技術は目覚ましい進化を遂げている。2014年にノーベル賞を受賞した超解像顕微鏡の開発は記憶に新しい。今や光の波長による分解能の限界(回折限界)を乗り越えて、超微細構造を驚くほど鮮明に観察可能だ。さらに近年、分厚い組織を丸ごと観察するための組織透明化試薬が開発されたことで、例えば脳科学の分野では、複雑な神経回路の立体構造を維持したまま、神経同士の微細な接続構造を観察することも可能だ。これまでにいくつかの組織透明化試薬が開発されてきたが、さらに深部まで、さらにクリアに観察するための技術開発が求められている。 理研CDBの柯孟岑(カ・モウシン)国際特別研究員(感覚神経回路形成研究チーム、今井猛チームリーダー)らは、分厚い組織のより深部まで高解像観察が可能な改良型透明化試薬「SeeDB2」を開発した。さらにこの試薬で処理したマウス脳サンプルを用いて、樹状突起のトゲ状の構造(スパイン)やシナプ
臓器が機能不全に陥った場合の根本的な治療法として移植医療が行われている。ドナー臓器は移植までの間低温保存されるのが一般的だが、機能的に保存できるのは数時間〜数十時間と短い。また、ドナー臓器は慢性的に不足しているため、心停止ドナーからの臓器の利用拡大が期待されており、特に長時間の阻血状態で移植不適応となったドナー臓器を蘇生する技術の開発が求められている。また、将来、ES細胞やiPS細胞から血管を伴うような大きな組織や臓器を試験管内で形成する技術も必要になると考えられる。 理研CDBの石川潤リサーチアソシエイト(器官誘導研究チーム、辻孝チームリーダー)らは、ラットをモデルにした研究で、摘出した肝臓を生体外において長時間機能的に維持できる灌流培養システムを開発した。この灌流培養系を用いることにより、一度阻血状態に陥った肝臓を蘇生することにも成功した。この研究は東京理科大学、慶応義塾大学、株式会社
哺乳類の胚発生では、胚盤胞の形成に伴って最初の明確な細胞分化が起こる。この時期になると、胚の内側に内部細胞塊が、外側に栄養外胚葉が形成される。内部細胞塊(培養したものはES細胞と呼ぶ)はやがて一個体を形成する細胞集団で、自己複製能と分化多能性を兼ね備えた多能性幹細胞である。一方、初期の栄養外胚葉は栄養芽幹細胞(TS細胞)で構成され、将来は胎盤の一部をつくる。転写因子の一つSox2は、ES細胞やTS細胞、さらには神経幹細胞などで幹細胞性の維持に機能していることが知られる。しかし、異なる細胞種においてSox2がどのように幹細胞性を維持しているのか、その仕組みは良く分かっていない。 理研CDBの足立健次郎研究員(多能性幹細胞研究プロジェクト、丹羽仁史プロジェクトリーダー)らは、Sox2がES細胞とTS細胞では異なるシグナル経路に制御され、また、異なる遺伝子セットを活性化して幹細胞性の維持に寄与し
おいしそうな食べ物の匂い、花の匂い、煙草の匂い、海の匂い―、私たちは様々な匂いを嗅ぎ分け、それらを記憶することができる。多様な匂い分子は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)である嗅覚受容体(OR)によって検出される。ORはマウスでは約1000種あるが、匂い分子が特定のORと結合すると、その情報は脳の嗅球へと送られ、各ORに対応する約1000個の糸球体と呼ばれる構造に集約される。さながら電光掲示板のように、匂い情報は1000個の糸球体の発火パターンとして表現されるのだ。受容体から糸球体をつなぐ神経は正確に配線されているが、このような複雑精緻な神経回路は一体どのように形成されるのだろうか。 理研CDBの今井猛チームリーダー(感覚神経回路形成研究チーム)らは、マウスを用いた研究から、リガンドの結合によらないORの活性化、すなわちORの基礎活性が、嗅覚ニューロンの糸球体への軸索の配線(軸索投射)
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く