安倍晋三前政権は、憲法改正を掲げた本格保守政権であるとみられていた。この安倍政権がわずか1年で崩壊してしまったことをどう分析するかは、日本の今後の政治状況を予測する上でもきわめて重要だ。その前提として、安倍氏に体現された保守主義が何であったかを解明する作業が不可欠であるが、最近、このためにとても有益なノンフィクションが上梓された。魚住昭氏の著作『証言村上正邦 我、国に裏切られようとも』(講談社)である。実は、本書の成立には筆者もかかわっている。 〈日本の右派勢力とは何だろう? そんな疑問に突き当たっていたとき、私(筆者注・魚住氏)は外務省の元主任分析官である佐藤優さんから興味深い話を聞いた。/佐藤さんの話によると、村上正邦さんは九州の筑豊炭坑で貧しい坑夫の子として生まれ、青年時代には炭坑で労働運動のリーダーをしていた。幼いころには朝鮮半島から強制連行され、虐待されている人たちの姿も目撃し