■「ホット」「社交」から「アイス」「一人消費」へ UCC上島珈琲によると、初期の缶コーヒー自動販売機には、アイス機能しかなかったという。冬はホットで、夏はアイス。現代日本人が当たり前だと思っている飲み方だが、大阪でいう「レイコー(アイスコーヒー)」は、どうも日本独特のものらしい。 昭和11年、永井荷風は『●東綺譚(ぼくとうきだん)』の「作後贅言(ぜいげん)」で、アイスコーヒーについて書いている。 「銀座通(どおり)のカフェーで夏になって熱い茶と珈琲(コーヒー)とをつくる店は殆(ほとん)どない。西洋料理店の中でも熱い珈琲をつくらない店さえある。紅茶と珈琲とはその味(あじわい)の半(なかば)は香気にあるので、もし氷で冷却すれば香気は全く消失せてしまう。しかるに現代の東京人は冷却して香気のないものでなければこれを口にしない。わたくしの如き旧弊人にはこれが甚だ奇風に思われる。この奇風は大正の初には