落語界には“フラ”という言葉がある。 理屈では計算できないおかしさを身にまとっている芸人のことを、芸人仲間が羨望の眼差しでもって「フラがある」とたたえる。 けいこによって噺はうまくなるが、フラだけはどうにもならない。持ってうまれた先天的なものだからである。 昔昔亭桃太郎には、それがたっぷりとある。現在67だが、「もっと早くおじいちゃんになってほしい落語家の筆頭」だ。 満面に笑みを浮かべることもなく、その日の客席の様子を探りながら噺を進めるようなサービス精神も、高座からは一切感じられない。 最初からぐいぐい。最後までぐいぐい。聴く側が引きずりまわされ、ペースにはめられ、やがて訪れるニンマリとした後味。装飾のないむき身の言葉のつぶやきと、ぼやきが、桃太郎の真骨頂だ。 ロンドン五輪開催中の高座では、早速五輪ネタを取り入れる。ビーチ・ボーイズのコンサートに行けば、それをネタにする。 「ポール・マッ