猫間中納言の姫君が何か書いて消してしまったが、 私は自分の書いたものを誰でも読んでいる、などとは思っていない。しかし、たとえば私に、単行本執筆とか連載とかの仕事を頼んできた人が、私に「××」という著書があることを知らなかったりしたら、それはちょっとむっとする権利はある。 以前、前野みち子さんという名古屋大の先生の『恋愛結婚の成立』が面白かったので、手紙を書くかしたのだが、前野さんは私の名前も知らなかった。まあちょっと苦笑したが、比較文学会員とはいえ、駒場とは関係ないし、西洋研究ひとすじの人だし、そういうのは別にいい。 しかしデビッド・ノッターのごとく、私の著述のごく一部だけ読んで「混乱している」などと言ったらそりゃあ抗議してしかるべきだし、実際ノッターは以後何の返事もよこさない。 それから前に若林幹夫という人が、漱石に関する本を送ってきたのだが、中には私の論考などひとつも参照されていなくて