英国にキム・ノーブルさんという47歳の女性がいる。彼女は14歳のころから20年間にわたり、入退院を繰り返した。精神に不調をきたしたせいだった。しかし、診断は鬱病、拒食症、統合失調症など医師によって異なっていて、根本的な問題がわからないままだった。 解離性同一性障害(DID)である。現在はこういう難しい名前で呼ばれている心の病だが、以前は「多重人格」と呼ばれていた。 キムさんには12の異なる人格がある。解離性同一性障害では、人格間で記憶が多少共有されていることが多い。だが、キムさんの場合は、それぞれの人格の独立性が強く、いくつかの人格の間では記憶の共有部分がまったく見られない。専門家のモートン教授ですら過去に類似例を見たことがないほど、重度の解離性同一性障害だった。 2005年のある日、キムさんの家に派遣されて世話をしていた介護人のデビー・マッコイさんが「絵を描いてみてはどうか」と提案