和田誠氏が「話の特集」に1970年から1977年まで断続的に掲載した、「雪国」の偽作シリーズがある(「倫敦巴里」所収)。川端康成の「雪国」の冒頭部分を、当時の人気作家の文体を模して描くという試みであった。 この遊びは、本好きの心をいたく刺戟した。あれから20年以上が過ぎ、新しい作家が続々と世に出ている。今なら、今の作家で「雪国」が書けるのではないか。そう思ったのが、この企画の出発点である。 尚、文責は無論、大矢にある。これを読まれて決して嬉しくはない作家及びファンもいるとは思うが、それだけ人気があるのだということでご容赦下さい。 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。 向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。夜の冷気が流れ込んだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように 「駅長さあん、駅長さあん」 明りをさげて