Sちゃんから遅れると連絡があったので、ふと思いついて以前の住居まで歩いてみたら、嵐のような感傷に襲われてかつてないほどうろたえた。町並みはほとんど変わっていない。だが、その変わらなさを目にするたびわたしは動揺し、また小さな差異を見つけてはそれを悲しみ、過去そこにあったというだけの、とくに思い入れもない飲食店やスーパーを過剰に懐かしんだ。田舎から出てきて、10年余りをそこで暮らした。つまり20代の大半を過ごした。しかし、その土地を離れるとき、わたしはほとんど寂しさを感じなかった。新神戸行きの新幹線に乗車する際も、まったくの平常心だったと思う。心が揺れた記憶はない。思い返してみれば上京した日も同様、べつだん昂揚することなく東武線に乗り込んだものだった。荷物は既に宅配便で送ってあり、だからほんとうに隣町へ行くような感覚と格好で、わたしはロマンスカーのチケットを買った。住む場所なんてどこでもいい、