<昭和天皇と社会主義、2つの「死」を物心つく頃から見つめてきた世代にとって、平成とはどのような時代だったのか。與那覇潤が令和の時代に問う『平成史』とは? 『アステイオン』96号より「『喪の作業』としての平成文明論」を転載> 文学や歴史や芸術など、人間の手あかのついたものごとを対象とする批評は、私情や思想をもとにして、「メロディ」や「リズム」を紡ぎ出し、独立した音楽を奏でるアンサンブル(合奏)のようなものだと私は考える。 楽器の編成やメロディの重層性、リズムの変化、「間」に気を配り、意味を込める力は、指揮者(識者)の知性や筆力、感性や生理によるところが大きい。 與那覇潤の『平成史』は、生乾きの歴史から、重層的なメロディや複雑に変化するリズムを紡ぎ出し、独立したアンサンブルとして展開した大著である。 與那覇は平成の政治、経済、社会、文化、思想、サブカルチャーなどに関する異なる言説を、「楽器」を