先日紹介したリービ英雄「越境の声」(岩波書店)で、リービは水村美苗との対談で日本社会の階級構造に触れている。「階級と日本文学」という小見出しがつけられた章は、 水村美苗 それに加えて、やはり小説の市場が大衆化されたというのもあるでしょう。みんなが喰うや喰わずやで貧乏だった時代には、みんなが本を読める時代が来るというのが理想としてあり、現実がその理想に到達していないことの方に眼が行ってしまっていた。ことに文学なんてやっている人間は、後ろめたい思いが強いから、そういう問題意識をずっと引きずってやってきたんだと思います。ところが現実のほうはさっさと先に進んでしまい、気がついたらみんなが本を読める時代にとっくに突入していた。大衆が本の市場を左右する社会に突入していたんですね。でも、日本人は大衆化というものについて考察したがらない。貧乏だったのと、マルクシズムが強かったのとがありますが、そこにさら