「なぜ自殺をしてはならないのか」。この問いに導かれて、アメリカの歴史学者ジェニファー・マイケル・ヘクトが哲学の歴史の森に分け入り、思索し、著した『自殺の思想史――抗って生きるために』の邦訳が、このたび、みすず書房より刊行された。批評家のベンジャミン・クリッツァー氏が、同書の議論を紹介する。 「自殺」の論じられにくさ 「自殺」は重大な問題だ。大半の人は、家族や友人が自殺をしようと考えていることを知ったらそれを阻止しようと努力するだろうし、親密な相手が自殺を検討したことがあるという事実を知るだけでもショックを受けるだろう。自分自身が自殺を考えていた時期がある人は、その時分の記憶を苦々しさや不安と共に思い返すはずである。そして、実際に家族や友人に自殺してしまい、心に傷を抱えながら生きている人は多々いる。 また、自殺は個人的にだけでなく社会的にも重大な問題と見なされている。自殺者が多い社会はそうで
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