「はい、2ユーロ。」 真っ黒に日焼けした、青空市場の草臥れたおっちゃんが、恐らく彼の持ちうる全ての愛情を込めた笑顔で、バンビに白いビニール袋を渡す。 袋には、色とりどりのパプリカ、艶やかなトマト、ズッキーニのような存在感のキュウリ、甘い香りを放つバナナなどがぎっしり詰まっている。 その横で私はよっこらしょ、と5キロ詰めのジャガ芋の袋を担ぐ。 「いやあ、相変わらず流石だわ、バンビは。」 ジャガ芋の袋の網目から、小さなジャガ芋が一つ道路に転がり落ちるのを横目に見ながら、私は惜しみない賞賛をバンビに送った。 ウィーン20区。 ウィーンの中でも特に移民の多い地区の一角の青空市場。 この市場の八百屋のおっちゃんに、やたら気に入られている同居人のバンビは、何をどれだけ買っても、請求される金額は常に2ユーロだ。 「おっちゃんにモテてもしょうがないし。」 可愛い顔で膨れるバンビに、おっちゃんが彼女のファン
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