1 自転車を漕ぎ出したころには、すっかり外は暗くなっていた。買って組み立てて、それからなんども乗っていないロードバイクだった。 新しい年のはじめ、おれはその自転車に乗らなければいけないような気がしていた。ここで乗らなければ、ずっと乗らなくなってしまうような、そんな気がしていた。おれは、昼頃からサイクル・コンピュータとライトの設置場所、電池の入れ替え、ブレーキの調整、そんなことをはじめた。気がつくとあっという間に時間は過ぎてしまう。 おれはぼんやりとコースを思い描いた。山手本通りから港の見える丘公園、左折して山下公園の前を通ってみなとみらい。帰り道についてはなりゆきだった。最短の山手隧道を通るか、中村川の方を通るか、それとも産業道路を通るか。 まったく、どれでもいいことだった。おれには早く帰らなければいけない理由もなければ、長く乗らなくてはいけない理由もなかった。トレーニングでもないし、決ま