大学の教員から介護現場への転身。飛び込んだ先は、驚きに満ちた豊かなフィールドだった。介護という関わりを通して、向き合う一人ひとりの人生の知恵や知識、時代の歴史を継承していくこと。そこに民俗学の新しい可能性を確信している。 アカデミズムとの決別 2003年。将来が期待される新進の評論家、研究者に贈られるサントリー学芸賞の思想・歴史部門を受賞したのは33歳の六車由実だった。受賞の対象になった論文は『神、人を喰う─人身御供の民俗学』。生贄、人身御供という人間の野蛮性や暴力性に関わるテーマに、若い感性で真正面から向き合い、従来の民俗学の枠を超えたダイナミックな研究姿勢と内容が評価され、気鋭の民俗学者は学界内に止まらない大きな注目を浴びることになった。受賞の翌年には、東北芸術工科大学(山形県)の東北文化研究センター研究員から同大の芸術学部助教授(准教授)になり、学者としての道を順調に歩んでいるはずだ