文芸春秋社から、「永谷脩の仕事」が出版された。副題に「野球人に最も愛されたスポーツライター」とある。2年前、68歳で亡くなった永谷さんが、その死の直前まで32年間、スポーツ誌「ナンバー」に書き続けた野球記事から厳選した53編が編まれている。 野球の魅力が縦横に語られる本書には、野村克也、権藤博、江夏豊、山田久志、落合博満、江川卓といった永谷節に欠かせない面々とともに、若く初々しい清原和博の姿がある。 落合のスイングや打撃理論に憧憬(しょうけい)し、そのすごさに気づけた喜びをどこまでも天真爛漫(らんまん)に語る底抜けの明るさは、読む者を、知らずのうちにほほ笑ませる。 □ □ 記者にも、遠い記憶がある。昭和58年夏の甲子園。大会の主役は蔦文也監督が率い、水野雄仁、江上光治らを擁して夏春連覇を果たした池田高校だった。