近づくと、息づいているような静物画のうす闇。 浜口陽三(1909~2000)の銅版画は、銅板を織物のように細かく刻んで、光と闇を生み出します。20世紀半ば、新しい時代の美術表現として銅版画を選んだ浜口は、ビロードのような色彩表現を求めて独自の技法を開拓しました。指先で触れてもたどれないほど微妙な銅の彫り加減によって、作品には無限の柔らかさが生まれ、さくらんぼやレモンに永遠の時間が流れます。 本展は、半世紀以上を経た今でも新鮮な魅力をたたえる浜口の銅版画の魅力を、現代美術と組み合わせて21世紀風に紹介しようと企画しました。詩人で美術にも造詣の深い高橋睦郎氏を顧問としてお迎えし、精神性の高い繊細な作品ばかりを紹介します。 細い絹糸を用いて、微妙な心の動きを空間に現出させる池内晶子。絹糸を手で結び、切るという行為の集積は、作家にとって絵画や彫刻に近似した営みです。意識下のものと触れる手段として制