この時期になると必ず思うことがある。それを思うと心は千々に乱れ行き場のない憤りが当て所なく彷徨う。愛しくて憎らしい。愛憎というのはこういうことを言うのかと思う。 このくらいの時期になると僕のような水飲み百姓でもスキヤキを食べる機会に恵まれ、それはそれは喜び勇んで食べるわけなんだけれども、取り皿というかお椀に生卵を入れてそいつに肉なんかをじょぼんとつけて食べると非常にうまい。がしかし、このうまいのがほんの一瞬の出来事であることに悲しみにも似た激しい憎悪を覚える。世の中はうまくいかないことが多い。 宴席に行き乾杯の発声がなされる前、誰よりも早く椀に卵を割って箸でかき混ぜる。なんかおっさんのどうでもいい挨拶の最中もぐるぐると手早く音を立てないように卵黄と卵白が溶け合うように混ぜている。ほどなくして乾杯の発声がありグラスを隣近所とカチンカチンと合わせとりあえず一口飲んで口を湿らせる。熱せられた鍋の