沖有人 不動産コンサルタント 1988年、慶應義塾大学経済学部卒業後、コンサルティング会社、不動産マーケティング会社を経て、1998年、アトラクターズ・ラボ(現スタイルアクト)を設立、代表取締役に就任。/ この著者の記事を見る
前回、全ての経済予測は「条件付き予測」であり、2012年はその「条件」の変化が日本経済全体を左右するだろうと述べた。そして、その条件変化のうち、景気にプラスに作用するのが震災からの復興需要であることは前回述べた。逆に、マイナスに作用する可能性が高いものとして「欧州債務危機」と「日本の財政危機」がある。 このうち欧州債務危機の方は、いつ急変してもおかしくない、目の前の危機である。日本の財政危機の方は、今すぐ発生することはないだろうが、ミニ危機程度はあるかもしれない。さらに放置していると近い将来大きな危機となって日本経済を襲うだろう。今回は欧州の債務危機について考えよう 標準的な予測の想定 前回からだいぶ間が空いてしまったし、その間に新しい情報も出てきているので、もう一度2012年の日本経済についての標準的なシナリオを確認しておこう。 まず政府はどんなシナリオを描いているのか。2011年12月
第2回で不動産の投資基準を示したので、第3回では不動産業者の騙しの手口を暴くことにしよう。不動産を誰から買うにしても、売ることに携わる人には自分が儲かるというインセンティブがある。仲介会社でも建物を建てた会社でも管理会社でも、売ったらその人達が儲かるようにできている。1億円の物件を仲介したら300万円の手数料が入るし、歩合給もたんまり付くのだから、何としても売りたい。たとえ、購入者が損すると分かっていてもだ。不動産投資家にとって味方はいないという前提に立った方がいい。以下のうそをあなたは見抜けるだろうか。 「利回り星人」のうそ 利回りが高い物件に投資したいと単純に考える人を「利回り星人」と呼ぶ。これを批判することで、低利回りの物件を斡旋したがる業者がいる。こうした会社は(高ではない)好利回りなどのあいまいな言葉を使う。確かに、高い利回り物件は手を出しにくい人が多いからこそ利回りが高いことが
消費税引き上げを含む社会保障と税の一体改革には隠れた「爆弾」がある。最低保障年金制度は、中高所得者にとって給付減、負担増の恐れがある。負担と給付の試算は国民に見えず、「知らされないまま」の改革進行の格好だ。 2月中に閣議決定し、3月の法案提出を目指す社会保障と税の一体改革に新たな懸念が出てきた。素案の中身に一体改革の「質」自体を考えさせるものが含まれていることが分かってきたためだ。 その1つは、民主党が過去のマニフェスト(政権公約)で訴え続けてきた年金制度の一元化に含まれる最低保障年金。民主党は、国民年金と厚生年金を一体化し、支払った保険料に応じて年金を受け取る所得比例年金と、低所得で年金額が少ない層にも月額7万円の最低保障年金を給付するとしている。 最低保障年金は低所得者に満額給付するが、一定の所得になると給付額が減り、さらに所得が上がるとゼロになる。その分は所得比例年金の方の給付で“補
(前回から読む) 誰も教えてくれないリスク・リターン 「不動産投資」に関連性の強い言葉をネット上で調べると、「怖い」「怖くない」が上位に出て来る。不動産投資は株のように多くの経験者がいるわけでもない。多額のローンを組んで行う投資でもあるので、自己破産リスクもある。それなのに、リスクとリターンについて正確な理解が進んでいない表れに他ならない。 不動産投資で失敗した人は多いが、本屋には「成功体験談」しか並ばない。「儲かる話」でないと本が売れないという事情や失敗した人はそもそも本を書かないという面もあるのだろうが、リスクを教えてくれない本を読んでも、リスク・リターンの対処法が分かるわけがない。 不動産業者のほとんどはその物件がどのくらい損得を出すかを知らないもしくは教えない。彼らは契約が成立すれば仲介手数料が入るので、買主が儲かろうが損しようが知ったことではない。成約に到ればいいと考えると、情報
「今年こそマイホームを買おうかな」――。新年早々、新聞からはみ出さんばかりの分譲マンションの折り込み広告を眺めて、こう考えた読者も多かったのではないだろうか。結婚、出産と人生の転機を迎える人でなくても、「いつかは自分の城を持ちたい」との願望は心のどこかにあるものだ。 2011年3月の東日本大震災は、“住宅を持つリスク”を顕在化させた。首都圏では、マンション販売の主戦場だった東京湾岸で液状化被害が出たことで、一時的な買い控えが起きた。しかし、「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ではないが、足元の需要は持ち直しつつあるようだ。不動産業界では、消費者の“震災後遺症”は短期間のうちに癒えたとの見方が強まっている。 発売前に問い合わせ3000件超 例えば、三菱地所レジデンスと鹿島が2014年3月の入居に向けて建設を進める「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」。その名の通り、東京都中央区の湾岸エリ
昨年10月の騒動勃発以来、一躍世界で最も注目される日本企業になってしまった観のあるオリンパス。 事件の幕開けはマイケル・ウッドフォード社長(当時)の突然の解任だったが、筆者は、米英の主要メディアの報道を見ていて「解任」を表現する単語の多彩さに気がついた。 たとえば主要紙の第1報の見出しはこうだ。 Olympus Removes Michael Woodford as President (ウォールストリート・ジャーナル電子版、10月14日) In a Culture Clash, Olympus Ousts Its British Chief (ニューヨーク・タイムズ、10月15日) Sacked Olympus chief had sought answers to over $1bn in payments (フィナンシャル・タイムズ、10月15日) このほか記事本文中の表現も含めると
「不動産と心中するつもりだろうか?」 不動産投資はからくりに満ちている。儲かるように見せかけることができるので、騙される人が後を絶たない。例えば、不動産投資のキャッシュフローは、誰でも初年度が最も儲かる。しかし、いずれマイナスになり、ローン返済に困るようになる。売りたくてもローン元本を上回らなければ売れない。そうなってからでは遅い。儲かっていないとは誰にも言えずに、時限爆弾が時を刻み始める。 しかし、この世界は騙される方が悪い。なぜなら、不動産投資はいつ終わるか分からない「ババ抜き」をやっているようなものだからだ。高く売り抜けたら、このゲームを終えることができる。最後にババを手元に残した人が大損して、最悪は自己破産することになる。相当な数の人が不動産投資をやっているので、これから自己破産者が続出することになる。そのXデーはいつ来るか分からないが、必ずやって来る。 私は不動産投資はやらない。
2011年は東日本大震災や福島原発事故が日本経済を襲い、欧州危機の再燃が世界経済を揺るがした。新年こそは明るい年になってほしい。しかし、懸念材料は尽きない。財政・社会保障の再生との関係で、日本経済の変調を表す2つのデータを指摘しおきたい。1つは、「貿易収支」の動き、もう1つは「国民貯蓄」の動向である。これらの数字の動向は、日本が、ギリシャのような「双子の赤字」(財政赤字と経常赤字)に直面し、日本経済の弱体化が進むことを示唆している。 2015年度以降、日本の貿易収支は構造的赤字に 貿易収支について、経済産業省が2011年11月21日、国家戦略会議に対して提出した資料(日本経済のリスクシナリオ)は衝撃的である。 図表1をご覧いただきたい。貿易収支(対GDP)の推移の「トレンド」(赤線、右目盛)を見ると、2015年度以降マイナスになっている。現状のままでは、日本経済は貿易赤字構造に陥る可能性が
日本人は結構「格付け好き」である。古くは相撲の番付表あたりにその嗜好が見て取れる。現代では、世界遺産に認定された観光地は一気に観光客が増えたり、金賞を受賞した食品は売り上げが倍増したり、などという現象は皆さんもおなじみだろう。異国のタイヤメーカーなどに日本の食文化が分かってたまるか、と上陸当初はさんざん物議をかもしたレストランガイドも、日本各地に降るように星がまき散らされると、高評価に喜んだ世間にすみやかに馴染んだ。 だが、ひとつだけ嫌われ続けている格付けがある。これが「信用格付け」だ。どこかにおカネを貸した時に、それが戻ってこないかもしれない可能性(=信用リスク)を簡単な記号で表し投資家に広く知らせるものである。 「格下げ」などという言い方はもってのほか? 対象をある基準で区分し分かりやすい呼称で表記する点においては、世界遺産や三ツ星レストランと何ら変わることは無いのに、なぜ信用格付けだ
オーストラリアとともにAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を作り、米国を巻き込んで環太平洋の自由貿易構想を推進しようとしていた日本の理想はどこに消えたのか。アジアのリーダーを標榜していたはずの日本の内向き志向に警鐘を鳴らすのが、小寺彰・東京大学教授だ。オバマ米大統領がTPP参加を宣言した2009年からTPP参加を逡巡し続けた日本はすでに2年遅れであり、反対派が懸念する、国家と投資家の紛争解決(ISDS)なども恐れるに足らず、と喝破する。 TPP(環太平洋経済連携協定)の意味に関して、少し大きなフレームワークからご説明したい。 国を二分して喧々囂々する問題か 私はTPP参加に賛成だし、TPPに入る以外に日本に選択肢はないと思う。ただし、TPPによって国を閉じるとか開くとか、そういう極端な話ではない。日本は戦後一貫して国を開いてきた。その延長線上にTPPがあると考えたほうがいい。国を二分して、
最近、妻の出産とその後の入院に付き添ったことで、英国の医療サービスを体験する機会があった。NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)と呼ばれる公立病院では、診察から手術、入院までの費用は原則的に無料だ。英国が福祉国家と言われる所以だが、それが英国の財政に大きな負担となり、人員カットによるサービスの質の低下などが社会問題となっている。 何かをお願いすれば、数時間も対処してもらえないことは当たり前。ある医療機器の扱い方が助産師と医師の間で周知されておらず、その結果、治療効果が上がらずに入院期間が長引いた。 「ごめんなさい。今、忙しいから」「今日はスタッフが少ないから仕方がないの」「それは私の仕事じゃないのよ」。そんな言葉を何度も聞いた。もちろん、NHSの名誉のために捕捉しておけば、出産時に予期せぬ緊急事態に見舞われた時の対応は驚くほど素早く、娘を無事に取り上げてくれた医師や助産師たちには心より感謝
厚労省が2011年10月中旬に打ち出した「年金支給年齢引上げ」案について衝撃が広がっている。支給開始年齢は、1994年や2000年の法改正により、「3年ごとに1歳引き上げる」ペースで最終的に65歳まで引き上げることが決まっていた。しかし、厚労省は「急速に進む少子高齢化に対応し、年金財政の持続可能性を高めるには、支給開始年齢のさらなる引き上げが必要」と判断した。 具体的には、以下の3つの案を提示した。(1)引き上げペース加速案(「2年ごとに1歳引き上げる」ペースで65歳まで、(2)支給開始年齢引き上げ案(「3年ごとに1歳引き上げる」ペースで68歳まで)、(3)両案の合成案(「2年ごとに1歳引き上げる」ペースで68歳から70歳まで)の3案である。 今回の支給開始年齢引き上げ案について、メディアなどの報道を見る限り、退職間近の世代を中心に厚労省批判が高まっている。だが、支給開始年齢は若い世代ほど
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン 政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が10月25日、我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画をまとめた。「高いレベルの経済連携と両立しうる持続可能な農林漁業を実現する」ため、水田農業の規模を今の10倍の20~30ヘクタールに拡大するのだという。同会議で野田佳彦首相も「(TPPなどの)経済連携と農業再生を両立しなければならない」と強調した。 しかし、鹿野道彦・農林水産大臣らは、「基本方針案はTPP参加を見据えたものではなく、別個のものであると(同再生実現会議で)確認した」と説明している。 鹿野農水相の言う通りである。この基本方針案はTPPなどの貿易自由化と相いれない。 TPPに参加するということは減反を廃止するということ 「関税は独
世界はいよいよ「ポスト対テロ戦争時代」に本格的に突入した。オバマ大統領は、ブッシュ前政権時代に米国が深入りした戦争からの撤収を加速させ、小規模部隊で安上がりな軍事介入、経済・外交・インテリジェンスを用いた「見えない戦争」へのシフトをますます強めている。 10月21日、オバマ大統領はホワイトハウスで声明を発表し、今年末までにイラクから米軍を全面的に撤退させる計画を正式に発表した。 「今日、私は、約束通り、イラクに残された我々の軍隊が今年の終わりまでに全員帰宅することを報告する。(戦争開始から)9年近くの後、米国のイラクにおける戦争は終結する。」 「イラク戦争の終わりは、より大きな事態の推移を反映したものである。戦争の潮流は後退している。イラクからの撤収により、我々は再びアルカイダとの戦いへ焦点を合わせることが可能となり、その結果、オサマ・ビン・ラディンを含めたアルカイダ指導部に対して、大勝利
前回コラムでは、中国ビジネス交渉の現場(特にアルコールが入る宴会の席)に挑む際、「それなりに中国語ができて、意思疎通が可能であれば、通訳を介するのではなく、中国語で挑むべきだ。そうすることで、初めて相手の本音が引き出せる」という筆者の意見を、体験談を交えて読者のみなさんと共有させていただいた。 「中国ビジネス交渉のための語学」ということで、これまで、通訳を介する方法、中国語で直接やり取りをする方法の二つを取り上げてきた。どちらで挑むかは状況次第だ。今回はプラスアルファーとして、もう一つの方法を模索してみたい。英語である。 「えっ!なんで中国人と英語で話すの?!」 反射的にこう思われる方が、少なくないかもしれない。もちろん、13億人すべての中国人が英語で話せるわけではない。地方や内陸部、農村など奥地に乗り込めば、カタコトの英語すら伝わらないケースも珍しくない。前回議論した中国生まれの「普通語
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ここ数回、「中国ビジネスにおける交渉を現場でどう動かしていくか」というテーマで議論を進めてきた。9月29日のコラムでは、筆者自身の体験から「通訳の重要性と戦略性」を挙げた。前回コラムでは、交渉に挑む布陣に「明るい性格で、現場の動きにも柔軟に対応できる女性通訳」は不可欠と記した。 プロの通訳に橋渡しを委託し、正確なコミュニケーションを図ろうという考え方は正しいと思う。日本人と中国人が、お互いに中途半端な中国語あるいは日本語で交渉し、意思疎通すらままならないという具合では商談は進まない。語学力が表現力に乏しい初歩のレベルにあるならば、通訳を介するのがベターな選択肢だ。 とはいうものの、習得した中国語で対中交渉に挑む、即ち、相手の土俵で勝負するスタイルに勝るものはないと筆者は考える。相手の言葉で会話をするということは、相手の懐に入り込むことを意味する。相手のいちばん話しやすい母国語で話してもらう
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