そこは秘密の場所だった。 左手に山の斜面、右手に畑が続く道を進み、ほとんど流れのない堰にかかる、小さな橋を渡る。 そこから少し歩くと、足許が水気を含んだ沼地のようになり、毎回ズック靴が中まで濡れてくる。 そこは驚くほど静かで、誰もいない。 静けさに恐怖を感じながらも、その頃の私は、好奇心の方が先にたった。 毎回、つま先に湿り気を感じながら、沼地を先へと進んだ。 鬱蒼と繁った草木のなかに、池と呼ぶには小さすぎる1メートルくらいの水溜まりが出没する。 そこが私の目的地だった。 「おらだよ」 ここで、水溜まりの黒い丸に声をかけるとき、自分の声が非現実的に感じる。 そして、いつも声をかけた瞬間、しまったと思いながら水溜まりを見る。 しばらくすると、そこから河童が出てきた。 うす緑で狭い肩幅の痩せた体は、小3の私より少し小さい。 大きなギョロりとした目でこちらを見た。 持ってきた給食で残したパンを、