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ブックマーク / nix-in-desertis.blog.jp (14)

  • nix in desertis:自分が登った山の『日本百名山』を読む(雲取・大菩薩・富士山・天城)

    66.雲取山 深田久弥は都会の喧騒が嫌いすぎて,「煤煙とコンクリートの壁とネオンサインのみがいたずらにふえて行く東京都に,原生林に覆われた雲取山のあることは誇っていい」とよくわからない褒め方をしている。また「雲取山は東京から一番近く,一番深山らしい気分のある二千米峰だけあって,高尾山や箱根などのハイキング的登山では物足りなくなった一が,次に目ざす恰好な山になっている」とする。これは現代でも変わっていない。かく言う私も初めて山小屋に泊まったのはこの雲取山だった。一方で,「一番やさしい普通のコースは,三峰神社までケーブルカーであがって,それから尾根伝いに,白岩山を経て達するものであろう」としている。現在では鴨沢から登っていくのが一番楽だと思われるので,当時は鴨沢ルートが荒れていたものと思われる。奥多摩を手に入れた東京都が,過保護気味に登山道を整備するとは,深田も予想していなかっただろう。それで

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    yuchicco 2023/12/16
  • nix in desertis:2023年6月に行った美術館・博物館(ブルターニュ展2つ,マティス展)

    SOMPO美術館のブルターニュ展。偶然か作為かはわからないが(事情を知っている人がいればコメント欄でご教示いただけるとありがたい),2023年の6月に西美とSOMPO美術館でブルターニュ展がかぶった。ブルターニュはフランスの辺境で独自の文化を維持した地域であり,近代になって鉄道が通ると観光地として人気を博すことになった。そこには都会化し,過度に洗練化されたパリとは異なる,粗野で素朴で敬虔な人々と,波高く険しい断崖に代表される荒々しい風景が都会に疲れた人々を出迎えてくれるのであった……という説明だけで気づく人は気づくところで,数々の絵画を鑑賞して感じたのは,どう考えてもこれは身近なオリエンタリズムである。しかも距離が近すぎるがゆえに当事者たちが気づきにくいたぐいの。とするとそこを批評するのが展覧会の役目なのではないかと思うのだが,どちらの企画展もその方向性での批評性は高かったとは言いがたい。

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    yuchicco 2023/08/12
  • nix in desertis:2022カタール・ワールドカップのグループリーグに見る世界史

    ブログの恒例企画なので。2018年の。 グループA(オランダ・エクアドル・セネガル・カタール) 関係が非常に薄そうな4ヶ国に見えるが,実はセネガルにある負の世界遺産ゴレ島をオランダが使っていた時期がある,つまり奴隷貿易という意外な接点がある。ゴレ島は17世紀後半に英仏と三つ巴で取り合いとなり,最終的にフランスが対岸のセネガルとともに占領した。なお,黒人奴隷貿易の輸送数ではポルトガル・イギリスが圧倒的に多く,次いでフランス,4番目がオランダである。オランダに黒人奴隷貿易当事国のイメージがあまり無いかもしれないが,17世紀の時点ではポルトガルに次ぐ主要国であった。18世紀に入ってから英仏が急速に輸送量を増やし,オランダを抜き去っていく。ゴレ島がフランス領となったのはその端緒である。他はちょっと見当たらなかった。ロイヤル・ダッチ・シェルがカタールの油田開発にかかわってたりしないかなと思って調べ

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    yuchicco 2022/11/25
  • nix in desertis:ゴヤとマネという様式分類上の困難を高校世界史でどう扱うか

    久しぶりの高校世界史深掘りシリーズ。 言うまでもなく,様式史とは同時代または後世の人間による整理である。ゆえに画家個人を必ずどれかの様式に入れないといけないわけではない。実際に,どうにも分類しがたい画家は存在する。しかし,専門家や好事家はともかく,一般教養や高校世界史のレベルだと,有名な画家をどこかしらのグループに入れることが要請される。この画家は一人一派なので型にはまらないのです,という説明を通すのは難しい(なぜ難しいのかわからないという人はすでに世間の知的水準や感覚から遊離している自覚を持つべし)。どこのグループにも入らない理由の説明をしようものなら,世の中には一般教養として求められるものが無数にあるのだから,込み入った事情を把握するくらいなら別のものを学んだほうが効率がいい,という反応をされてしまうのが常である。これは知っていてほしいと思う側にも望ましくない状況で末転倒である。だか

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    yuchicco 2021/12/16
  • nix in desertis:2021受験世界史悪問・難問・奇問集 その2(共通テスト・国公立大編)

    昨日の続き。今年は共通テストと阪大・一橋大の計3問のせいで公開が1週間遅れ,おまけを作る気力が消滅したと言っても過言ではない。何なら一橋大の方はまだ原稿が完成しておらず,後に追記するか別記事を立てる可能性がある。解説が非常に長くなったので,心して読んでほしい。 1.共通テスト第2日程 <種別>分類不能(しいて言えば作図の指示ミス) <問題>1 B オーストリアの貴族クーデンホーフ=カレルギーは,1923年に『パン=ヨーロッパ論』を著し,ヨーロッパ統合運動を展開した。彼は世界が五つのブロックに分かれて統合されていくと考え,ヨーロッパも「パン=ヨーロッパ」として統合されるべきだと主張した。その際,欧米諸国の持つ世界中の植民地も,それぞれのブロックに統合されると考えた。次の図1・図2は,『パン=ヨーロッパ論』所収の地図を加工したものであり,縦線や横線,斜線,点などで地域がブロック別に示されている

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    yuchicco 2021/03/29
  • nix in desertis:イギリス農業革命と産業革命を,高校世界史でどう説明するか

    高校世界史深掘りシリーズ。またしても経済史になるが,こういうネタは経済史の方が拾いやすいというのはある。18世紀後半から19世紀前半にかけて,イギリスでは産業革命が起きているが,その前段階として農業革命も起きている。 農業革命とは,狭義には農業技術の革新である。細かく言えば農具の改良や土壌改良手法の確立等もあいまって全般的に改良されたようなのだが,高校世界史上でも取り上げられる最大の革新は,三圃制農業が四輪作農法(ノーフォーク農法)に切り替わったことであった。すなわち,輪作の周期に窒素固定を行うマメ科の植物(の根粒菌)を入れることで地力の回復を早めつつ,家畜用作物も生産することができるようになった。これによって休耕地が消滅し,穀物が増産され,同時に畜産物の肥育も容易になった。近代的混合農業の始まりである。 こうした農法の切り替わりは農村のあり方に波及することになる。イギリスの農村ではそれま

  • nix in desertis:2020受験世界史悪問・難問・奇問集(おまけ)

    以下はおまけ。良問と思った問題か,紹介・コメントしたくなった問題,コメントしておいた方がいい問題を並べておいた。書くのが遅れた分,ちょっと長めに。 〔おまけ1〕慶大・経済学部 <問題>1 問3 下線部Cに関連して,ポルトガル商人が日と明との貿易を中継するようになった背景について,取引された主な商品と,明の貿易政策に振れながら,〔解答欄B〕の所定の欄の範囲内で説明しなさい。(編註:90〜100字程度) <コメント> この問題は日史との共通問題で,確かにそれが可能なテーマである。しかし,どちらの科目であってもいつの間にかポルトガルが出現していて南蛮貿易をやっていることになっているので,説明を要求されると盲点である上に,それだけなら単なる難問だが,ちゃんと説明をつけようとするとその材料自体は基事項として学習していることに気づくという,非常に良いところを突いていると思う。これは私自身も解いて

  • nix in desertis:『宇崎ちゃん』バッシング騒動についての雑感

    件についての議論の要点は,『宇崎ちゃんは遊びたい!』という作品を初見時にどう読解するか,という点にあると思っている。ある人が「ある程度この種の作品を見慣れている人たち(主にオタクと呼ばれるような)なら,仮に『宇崎ちゃん』という作品を全く知らなくても,この3巻の表紙を見たら,まあ大体『高木さん』とか『長瀞さん』とかの,あの系統の作品なんだなという想像がつく」と書いていて,それに完全に同意する。そう,文脈がわかる人には,乳袋表現はあくまでヒロインをかわいく見せる一つのテクニックでしかなく,そこが作品全体の主要ではないことに容易に察しがつくのである。(※) しかし,そうした文脈を読む力が一切ない人がこの絵を見たとして,これだけの解釈ができるかどうか考えてみると,まあ無理かろうなと思う。どう見ても絵の中央にやけに強調した胸が鎮座し,注射針が怖い男性を見下して煽っているかのようなセリフまで付いてい

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    yuchicco 2019/11/30
  • nix in desertis:2018受験世界史悪問・難問・奇問集 その1(上智大・慶應大)

    昨年に2巻を発売して一区切りつき,業も計画的に仕事を進めた結果,それなりに余裕ができたので,年は全編公開とすることができた(追加で少し日史までできた)。協力してくれている校正者の皆さんにも感謝したい。 ・収録の基準と分類 基準は例年とほぼ同じである。 出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。 悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。 → 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず,作題者の心情を読み取らせるものは,世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。 奇問:出題の意図が見えない,ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に,歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。 難問:一応歴史の問題ではあるが,受験世界史の範囲を大きく逸脱し,一般の受験生には根拠ある解答がまった

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    yuchicco 2018/03/18
  • nix in desertis:高校地理・世界史教科書における語族(アルタイ諸語)について

    ・高校地理における「(ウラル・)アルタイ語族」の取り扱いについてのメモ(思索の海) >どなたか教科書も調べてくれると嬉しいです。 ということなので,便乗して。まず,高校の地歴公民というと山川出版社のイメージが強いが,実は山川は地理の教科書を発行していない。現在地理Bの教科書を作っているのは二宮書店・帝国書院・東京書籍の3つだけである。以前はもう少し多かったのだが,2014年の課程改定の際に撤退してしまった。シェアから言えば圧倒的に帝国書院で70%程度(参考データ)。 なお,教科書を作っていない科目があるのに山川が地歴公民の総合商社のようなイメージが強いのは,用語集を全科目作っている唯一の会社だからである。しかし,教科書を作っていないこともあって,地理の用語集は世界史・日史に比べると信頼性が低い。また,そういう事情もあって世界史・日史の学習が教科書・用語集中心でサブに資料集が来る三点セッ

  • nix in desertis:書評:『まなざしのレッスン2』三浦篤著,東京大学出版会

    書は大学の学部生向けに書かれた西洋美術史学入門書『まなざしのレッスン』の続編である。1巻は私の知りうる限り最優秀の美術史学入門書である。「西洋美術は一種のパズルである」ことを示し,なぜ絵画を見るためには知識が必要なのかを説き,絵画に関する基礎知識について概説している。そこに趣味としての美術鑑賞の,学問としての美術史学の入り口が用意されているのである。入門書であるので平易な語り口であり,また読む上で必要な知識を極力減らしてあり,大学入りたての文系大学生や,西洋美術というものに疑問を持つ社会人がいかにもいだきそうな疑問にちょうどよく答える名著であった。その意味では必ずしも美術史学を専攻する予定の学生の入門書というより,入門する気のない人たちにとっての方が好都合なだったとさえ言えるかもしれない。知識を覚えるためのではなくて,「なぜ知識を覚える必要があるのか」という説明の方に徹底しているから

  • nix in desertis:この春に西美に入ったフェルメール帰属の作品について

    この春の上野の西美の新収蔵品に,フェルメールに帰属するという説のある作品があり,美術ファンの間でちょっとだけ話題になった。直接見に行ったら,現地ではかなり詳細な説明が配布されていた。これを読むと作者の同定論争がかなり興味深かったので,はしょって紹介しておく。 フェルメールの真作は最小数でおおよそ35点(当に疑い深い人なら33点)となっており,そこから41点までは幅がある。作は疑わしい方の6点の一つだ。疑わしいなら公的な美術館で買うなよ,と思うかもしれないが,それは勘違いである。作は西美の購入品ではない(よく見ると「新規展示作品」としか書いていない)。来は個人蔵であるところ,研究者及び美術ファンに検証の機会を提供するため,寄託されたものだ。所有者には感謝の意を捧げたい。 ぱっと見で作がフェルメールらしくない最大の理由は,これが宗教画だという点だ。タイトルにもなっている「聖プラクセデ

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    yuchicco 2015/04/29
  • nix in desertis:拙著の利用もお待ちしております

    歴史のテストで、「レーニン」が正解の問題を「ウラジーミル・イリイチ...(Yahoo!知恵袋) → 実際これはベストアンサー通り。「『ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ』と知っている人間が,『レーニン』という名前を知らないはずがない」というのは採点者に対する甘えでしなく,仮に採点されていても温情措置です。「レーニン」を名乗った人物が,レーニンとして残した業績から出題しているのであろうから,レーニンが正解。どうしても書きたいならベストアンサーで書かれている通り「レーニン(ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ)」にしといてください。文句なく丸にしますんで。 → 同様の理屈で,「第一次ウィーン包囲当時の神聖ローマ皇帝」と問われて「カルロス1世」と答えたら,正解扱いされるかは際どいところになる。はてブで出てた「クワトロとシャアは別人」は良いセンスしてると思う。「クワトロ・バジーナ」の名前を聞きたか

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    yuchicco 2015/04/12
  • nix in desertis:受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2014 その3(国立大)

    ・はじめに 例年は私大のみ収集しているので,これは特別編である。2014年は国公立大で暴走した大学がいくつか見られた。国公立大は論述問題が多く,学部別に入試を作る必要がなくて前期1回分だけ作ればよいせいか,良問が多いのが通例である。しかし,この場合は別方向に暴走することがたまにある。教員が学生に課す期末試験の感覚で入試問題を作ってしまうという現象である。これはこれで範囲外の知識を要する問題ができあがる。 ただし,あえて言ってしまえば,論述において思考力を課す試験と範囲外の知識がないと解けない試験は紙一重である。なぜなら作った側は「確かに○○という事実を知らないと解けないが,問題文でヒント出してるんだから推測できるだろこれくらい」と思い込んでいるからだ。ゆえにこうした問題は,おそらく作った人としては意欲作なのである,困ったことに。しかしふたを開けてみれば,推測なんてつくはずもなく,ちゃんと

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    yuchicco 2014/03/13
    世界史の論述がない入試で本当によかった…。
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