はじめに Torkel Franzén(2005)が網羅的に扱っているように、Gödelの不完全性定理は、その発表以来、多くの誤解と誤用の対象となってきた。その代表的な一例が、「Gödelの不完全性定理は人間の心が機械ではありえないことを示している」という認識である。 しかし、この種の反機械論的議論には、繰り返し反論がなされてきており、有効な議論とはみなされていない。そのため、物理学および数学の世界で偉大な功績を残してきたRoger Penroseが、著書『皇帝の新しい心』(1989)および『心の影』(1994)において、この種の議論を基に「量子脳理論」を展開したことは、各方面から誤りの指摘だけでなく、大きな失望も招いた。 ここでは、こうした不完全性定理に基づく反機械論の1つと発端とされるLucas(1961)の議論と、それに対する反論を紹介する。 内容 第一不完全性定理について Luca
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