村上春樹の新刊エッセイを読んでいたら、そのなかで『ビニール・ジャンキーズ』という本が紹介されていた。アナログレコードの収集に取り憑かれた人たちを取材し、一冊にまとめたもので、ジャズレコード収集が趣味の村上には共感できるところが多かったようだ。村上の文章で興味を持ち、さっそく『ビニール・ジャンキーズ』を入手し読んでみたが、これがかなりおもしろく、あっという間に読了してしまった。ずいぶん重症の患者たちがずらっと並んでいる。コレクターの業の深さにため息をつきつつ、でもやっぱりたのしそうだよな、充実した人生だよな、と笑ってしまった。 この本では、ロックやソウルのレコード収集家が中心的に描写されるが、最初に取り上げられるレコードはクラシックだ。音楽マニアたちが集まり、プロコティエフの『スキタイ組曲』というレコードを聴く場面からこの本は始まる。『スキタイ組曲』は1957年に発売された世界初のステレオレ