日本は高齢化社会に伴って認知症患者が増加している。最近では日米が共同開発した認知症薬「レカネマブ」が米国で承認され、日本でも年内に患者への投与が始まろうとしている。日本企業の成果が世界で認められる一方、より効果の高い治療薬の開発が求められている。そのために認知症の詳細な発症機構を解明し、従来の治療薬とは違ったアプローチで認知症を改善する方法を見いだすことが必要とされている。(飯田真美子) 認知症の中でもよく知られているアルツハイマー病は、「アミロイドβ」というたんぱく質が主な原因の一つであり、これを標的とした治療薬がほとんどだ。アミロイドβは情報伝達の過程で作られる物質であり、単体では無毒だ。健常者の脳内にも存在し、不要であれば分解して体外に排出される。だが、何らかの刺激を受けると反応が起こり、重合体になった後に可溶性の線形構造「フィブリル」を形成して線維化する。特に重合体やフィブリルの毒