第1回ハヤカワSFコンテスト最終候補となった表題作を巻頭におき、4篇の書き下ろしを加えて作られた短篇集だ。 これで同コンテスト最終候補に残った5作品のうち、主催の早川書房が刊行を公言していた4つがすべて出揃ったことになる(正確に言うと「オニキス」は書籍化に先んじて〈SFマガジン〉に掲載済みだが)。ほかは、六冬和生『みずは無間』[受賞作]、坂本壱平『ファースト・サークル』、小野寺整『テキスト9』。前二者は本欄ですでに紹介した。それぞれに特色があるが、ぼくは「オニキス」がもっとも面白い。 このコンテストの応募規定には「400字詰原稿用紙100〜800枚程度」とあるため、短篇と長篇が同列に審査されることになるのだが、最終候補に残ったうち短篇は「オニキス」だけだった。その短い尺のなかで目まぐるしく局面が変わる。物語進行上の場面転換というだけではなく、作品内の現実そのものが変わるのだ。自然発生する「