1992年春、私はある大学の経済学部に専任講師として就職し、生まれて初めて大学の教壇に立った。大教室でほぼ一杯の学生の前に緊張しながら、経済原論の講義をした。 当時の私は、今では考えられないほど、事前によく講義の準備をしていた。同じ年に就職した同僚で、他大学から転職してきた経営史研究者の鈴木恒夫氏から「一年目の先生は、一番いい先生」という言葉があるんだよ、と居酒屋でおしえられた。 新人教師には、これから「一所懸命、学生におしえるぞ」という教育に対する新鮮な情熱がある。明日が授業というときには、飲み会も早々に切り上げたりした、場合によっては誘いを断って、授業準備なんてこともあった。今ではとても信じられない。それほど、たしかに一年目の私は、いい先生だった。 ただ、いい先生ではあったかもしれないが、おもしろい先生ではなかった。頑張って準備して懸命に講義をしている割に、学生の反応はよくなか