「男性は狩猟、女性は採集」という説が流布したのはなぜなのか。名古屋学院大学教授の今村薫さんは「『男は仕事、女は家庭』という固定観念は、戦後、日本経済の高度成長とともに形成されたもので、歴史的に日の浅いものであるといわれる。しかし、この近現代の産業社会における女性の位置づけを相対化することなく、時空間を超えた唯一の真実であるかのように考えたことが、『男は狩猟、女は採集』という定説に縛られてきた原因だ」という――。 文明人の都合でさまざまに語られてきた 「男は仕事、女は家庭」という現代社会の性別役割分業について、しばしば次のように言ってこれを擁護する人がいる。このような分業は太古の昔からおこなわれてきたことである。現在の狩猟採集民は、社会的分業や社会的階級が最も少ない社会であるが、この社会においてさえ、「男は狩猟、女は採集」という性別分業が見られる。人類の祖先も、男は妻子を養うために遠くまで狩