どこにいるのでしょう。1917年刊行の第一詩集『月に吠える』で犬の遠吠えを響かせていた萩原朔太郎(1886-1942)は、1923年刊行の第二詩集を『青猫』と名付けます。そして次のようにうたいます。 朔太郎いわく、「青猫」とは、英語のblueの「希望なき」「憂鬱なる」「疲労せる」の意味を含み、「物憂げなる猫」のことだと、そして詩集の題名の『青猫』は、「都会の空に映る電線の青白いスパークを、大きな青猫のイメーヂに見てゐる」のだということですが、都会の夜空には、一体どんな青白いスパークが煌めいていたのでしょう。 『青猫』とその直後の時代、朔太郎の詩にはいくつもの猫が登場します。いずれも、この世ならぬ姿をした猫たちばかりです。緑色の笛の音にのって蜃気楼のようにやってくる幻像は「首のない猫のやう」で「墓場の草影にふらふら」しています(「緑色の笛」)。春の夜に黒髪を床に広げて麝香の匂いを放つ女の屍体