ブックマーク / honz.jp (761)

  • 友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ

    ヒトの進化において「協力的なコミュニケーション」が大きな鍵を握ったであろうことは、たびたび指摘されるところである。人がひとりでできることは限られている。単独で野生動物を狩ろうとしても、得られるのはせいぜいウサギくらいだろう。しかし、ほかの人と協力すれば、わたしたちはシカだって野牛だって狩ることができる。また、ほかの人と情報交換すれば、わたしたちは新たな技術などについて伝えあうことができる。というように、その進化史において、協力的なコミュニケーションはヒトに多大なメリットをもたらしたと考えられる。 しかしそれならば、次のような問いがさらに生じても不思議ではないだろう。ヒトはどうやって協力的なコミュニケーションを行うことができるようになったのか。 書は、その問いに対してひとつの回答を与えようとするものである。そして、書が導き出す回答は、原書のタイトル(Survival of the Fri

    友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ
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    HONZ 2022/06/27
  • 『朝日新聞政治部』未来をつかみそこねた新聞社の話 - HONZ

    スタジオジブリが出している『熱風』という小冊子に、ジャーナリストの青木理さんが聞き手をつとめる「日人と戦後70年」という連載がある。ここに2021年8月号と9月号にわたり著者との対談が掲載された。 一読して驚いた。朝日新聞が生き残りをかけて調査報道を新たな看板に据えようとしていたこと、そのチャレンジが経営陣によって潰されたことが、生々しく語られていたからだ。 海外では調査報道に活路を見出した新聞社の例もある。朝日の狙いは間違っていなかったはずだ。にもかかわらずせっかくのチャンスを自らの手で潰したとはどういうことか。もっと詳しく知りたいと思っていた。 その経緯を詳らかにした一冊がついに出版された。しかも当事者の著者自身によるノンフィクションである。優秀な記者が関係者はすべて実名で朝日新聞の内幕を明かしているのだ。これほど迫力ある内部告発があるだろうか。大新聞中枢の権力闘争、政権与党からの攻

    『朝日新聞政治部』未来をつかみそこねた新聞社の話 - HONZ
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    HONZ 2022/06/18
  • 『人は2000連休を与えられるとどうなるのか』前代未聞の実験の果てに辿り着いた場所とは……? - HONZ

    連休。なんと甘美な響きだろう。 ラジオの番組作りの仕事は面白いのだが、ネックは休みがとりづらいことかもしれない。先日のゴールデンウィークも、「最大10連休」なんてニュースで伝えながらまるで他人事だった。10日なんて贅沢は言わない。3日間でいいから続けて休んでみたい。 わずか3連休でも羨ましく感じるくらいだから、2000連休なんて桁が違いすぎて想像することすら難しい。著者は6年間にも及ぶ休み(正確には2190連休)を体験した。そこにあったのは巨大な空白だったという。これほどの空白を与えられると、いったい人はどうなってしまうのか。 一見、軽めのサブカルエッセイのようだが、とんでもない。書は世にも奇妙な人体実験の記録である。理系ということもあってか(京都大学工学部卒)、著者の言葉はきわめて精確で、曖昧な表現にとどまることがない。そうした解像度の高い言葉で、自身に生じた微細な変化が記録されている

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    HONZ 2022/06/10
  • 『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ

    「その悩み、○○学ではすでに解決しています」みたいなタイトルのを見かけることがある。あなたが日々の仕事で直面する悩みや課題は、すでに最新の学説や理論で解決済みですよ、というわけだ。 だが当にそうだろうか。最新の学説や理論を応用すれば、世の中の問題はたちどころに解決するものだろうか。 著者は政治学を専門とする大学教授である。「話すも涙、聞くも大笑いの人生の諸々の事情」があって、47歳にして人の親となった。小学校のママ友やパパ友のほとんどは干支一回り以上年下だ。そんなママ友からある日「相談があります」と呼び出され、いきなりこんなお願いをされた。 「来年、PTA会長になってくれませんか?」 まさに青天の霹靂だ。驚いた著者は必死に出来ない理由を並べ立てる。「フルタイム・ワーカー」だから無理!「理屈っぽくて、短気で、いたずらにデカいジジイ」だから無理!ところがママ友は決してあきらめず、最後は情に

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    HONZ 2022/05/24
  • 『映画を早送りで観る人たち』是か非かではなく、もはや不可逆 - HONZ

    YouTubeやNetflix映画やドラマを1.5倍速で視聴するユーザーが急増しているという。それもそのはず、今やYouTubeにもNetflixにも倍速視聴機能や10秒スキップ機能が標準搭載されている時代だ。 しかし倍速視聴という行為だけを見れば表面化している些細な現象に過ぎないが、プラットフォーマー、コンテンツの作り手、社会、そしてユーザーを取り巻く様々な意識の変化がつながりあい、水面下ではうねりのような大きな変化が進行していた。 書はかつて「『映画を早送りで観る人たち』の出現が示す、恐ろしい未来」という記事を書いた著者が、その反響の大きさに驚き、あらためて倍速視聴という現象が現代社会の「何」を表していて、創作行為のどんな質を浮き彫りにするのか、あらゆる角度から描き出した一冊である。 このような変化を促進した要因にはいくつかあるが、外的なものとしてはプラットフォーマーの定額制動画

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    HONZ 2022/05/16
  • 『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』訳者あとがき - HONZ

    作者: ジェフ・ホーキンス,Jeff Hawkins 出版社: 早川書房 発売日: 2022/4/20 書は2021年に刊行されたジェフ・ホーキンスのA Thousand Brains: A New Theory of Intelligence の全訳である。原書は2021年のフィナンシャル・タイムズ紙のベストブックに選出されたほか、ビル・ゲイツの「今年おすすめの5冊」にも選ばれ、「人工知能はとりわけSF作家の想像力をかきたてる題材だ。真のAIをつくり出すのに必要なことについて知りたいなら、このがとても興味深い理論を提案している。ホーキンスは……数十年前から神経科学と機械学習のつながりについて考えていて、このでその考えをわかりやすく手ほどきしている」と評されている。 ジェフ・ホーキンスといえば、1990年代に携帯情報端末「パームパイロット」を世に送り出し、「モバイルコンピューターの父

    『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』訳者あとがき - HONZ
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    HONZ 2022/04/24
  • 『アンソロ・ビジョン 人類学的思考で視るビジネスと世界』好奇心の使い方で、大きなリスクを未然に防ぐ - HONZ

    ノンフィクション好き、とりわけ未開の地に住む部族の物語などが好きな人にとっては、実に役立つ一冊と言えるだろう。人類学的な思考法を獲得することが、ビジネスにおいて有効な知的ツールになりうるというのだ。 著者のジリアン・テットは、かつてフィナンシャル・タイムズの編集長も務めた人物。学生時代に文化人類学を専攻し、タジク人の婚姻儀礼を観察することで磨いたまなざしを、どのようにビジネスの世界へ転用したのか? そしてそれが多くのビジネスマンにとって重要なのはなぜなのか? 自身のキャリアをベースにした説得力ある筆致で、これらの疑問に答えてくれる。 人類学のマインドセットとして重要なのは「未知なるものを、身近なものにする」という姿勢である。これを実現するためには、見知らぬ部族の中に深く入り込み、他者の考えに耳を傾けなければならない。だがこれを徹底して繰り返すことで他者への共感が生まれるだけでなく、いつしか

    『アンソロ・ビジョン 人類学的思考で視るビジネスと世界』好奇心の使い方で、大きなリスクを未然に防ぐ - HONZ
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    HONZ 2022/02/26
  • 『最後の角川春樹』角川文化を生み出した “メチャクチャ”な出版人 - HONZ

    「あんなに有名な会社の社長がコカインを密輸して捕まるなんて。日の大人は薬物まみれなのかもしれない」。1993年夏、世間知らずの12歳の私は角川春樹の「コカイン密輸事件」に衝撃を覚え、妄想を膨らませ続けていた。その1週間ほど前に角川が監督した映画『REX 恐竜物語』を見たばかりだった。一緒に見た友人は「社長だけど映画監督でもあるから薬物くらいやっていてもおかしくないだろ」と妙にませた発言をしていたが。 文庫ブームの仕掛け人、映画界の風雲児、俳人、宗教家。角川にはいろいろな「顔」がある。近年は、6回の結婚歴や木刀を1日3万回以上も振ったエピソード、預言者を自認したスピリチュアルな言動など、私生活が注目されることも多い。むしろ、そのような側面しか知らない世代もいるはずだ。書は、そうした顔はもちろん記しているが、これまで見落とされがちだった出版人としての角川の姿を浮き彫りにしている。 父親が創

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    HONZ 2022/01/30
  • 『古代中国の24時間』英雄たちの歴史の陰に民衆の変わらぬ日常があった - HONZ

    「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか」という言葉がある。暗い場所から明るい場所はハッキリ見えるが、明るい場所から暗い場所は見えないだろうという意味だ。この言葉は、歴史の捉え方という観点から見ても、非常に示唆に富む。 中国古代史、中でも秦や漢の時代について語るとき、真っ先に脳裡に浮かぶのは、始皇帝、項羽と劉邦、三国志の武将など、その時代の太陽ともいえる人たちばかり。だが、激動の時代の頂点に君臨する英雄の足取りをもってその時代を理解する、という手法に見落としはないのだろうか。 英雄の陰には、名もなき民の支えがあるものだ。こうした人々の日々の営みの集積もまた、歴史を動かす要因になったことだろう。ならば、その時代に社会を下支えしていた人々は、どのような暮らしをしていたのか。何時に起床し、何回事をとり、どのようにトイレで用を足したのか。 書は古代中国の人の1日、24時間を、「未来からやってきた

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    HONZ 2022/01/23
  • 『言葉を失ったあとで』耳を傾け言葉を引き出す 「聞く」ことのプロの対話 - HONZ

    最高の聞き手同士が対話をするとどうなるか。書はその希有な例である。他人から話を聞くプロである2人が、「聞く」ことの実際を語り合った。 著者の1人である信田さよ子は、カウンセリングの第一人者。原宿に開業したカウンセリングセンターを訪れる人々の話に耳を傾け、依存症やDV(ドメスティックバイオレンス)、児童虐待などの問題にいち早く取り組んできた。 もう1人の著者、上間陽子は、沖縄で未成年者への聞き取り調査を続け、10代で若年出産した少女たちへの支援活動も行う研究者だ。2020年に出版したエッセイ集『海をあげる』が高く評価され、複数の賞を受賞したことは記憶に新しい。 上間にとって信田は、その仕事が臨床心理学への信頼のベースになっているほど尊敬する先達だ。実際に話をすると、信田が感心しながら話を聞いてくれるのに驚いたという。屈託なく肯定してくれるので、なんだか自分がいいことを話しているような気にな

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    HONZ 2022/01/08
  • 2021年 今年の一冊 - HONZ

    HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で11回目を迎えるところとなりました。「この記事を読まないと、年を越せない!」といった声はまったく聞こえてきませんが、今年も勝手に開催させていただきます。 さすがにこれだけ長くやっていると、原稿を作成する際にメンバーのフルネームを何も見なくても正確に打てるようになっており、我ながらビックリしております。 ちなみにこのコーナー「今年最も○○な一冊」というお題で、レビュアーそれぞれにタイトルをつけてもらうのですが、身内の認知度が低いのか、「今年一番○○な」などと覚え違いタイトルで送ってくるメンバーが多発しています。 また、ありがちなのが原稿は送られてきたものの書名が書かれていないケース。刀根明日香、今年の一冊はこので合っているか? そんなわけで、今年はタイトルを間違えたレビュアーによる「今年最も○○な一冊」から紹介していきます。 アーヤ藍 今年最も

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    HONZ 2021/12/30
  • 「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 - HONZ

    「ファイザーワクチン」誕生秘録は、疾走感あふれる奇跡のサクセスストーリーだ!『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』 バイオベンチャー・ビオンテック社の新型コロナウイルスワクチン開発秘録だ。その疾走感が半端ではない。なにしろ、ワクチン開発に取り組むチームを組織した日からヒトに投与するまでわずか88日しか要さなかった。このことからだけでも、その猛烈なスピードが想像できるだろう。 え?ワクチンといえばファイザーとモデルナのmRNAワクチン、それにアストラゼネカとかで、ビオンテックなんて聞いたことない、という人が大多数かもしれない。ごもっともである。しかし、ファイザーのワクチンは、ファイザー社ではなく、ドイツのビオンテック社が開発したものなのだ。そののワクチンについては、ファイザーが資金提供をおこない、50/50の権利を有するという契約がなされている。だから、来なら、ファイザー・ビ

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    HONZ 2021/12/27
  • 『東京ルポルタージュ』東京の「いま」がわかる31の物語 - HONZ

    今年は異常な年だった。いや、昨年に続いて、というべきかもしれない。 「あっという間に年末ですね」「なんだか1年が終わる手応えがないですよね」同じような会話を1年前も交わしていたような気がする。 2020年と2021年は、疫病とオリンピックの年として記憶されるだろう。 パンデミックと祭典は私たちに何をもたらしたか。書はコロナ禍とオリンピックに揺れた日々を、東京に生きる人々を通して描いたルポルタージュである。 とにもかくにも著者の熱量がびんびんに伝わってくる一冊だ。この歴史の特異点のような年に何が起きたのかを、余さず記録してやろうというジャーナリストの気合がみなぎっている。文字どおり著者は東京中を駆け回ってさまざまな人に話を聴いている。有名無名を問わず、また老若男女も問わず、書におさめられた31のエピソードに登場するのは、まぎれもなく私たちと同じ時代を生きる人々だ。 著者についてはネットメ

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    HONZ 2021/12/16
  • 『データ視覚化の人類史』思考すること、伝えること グラフ手法の進化プロセス - HONZ

    作者:マイケル・フレンドリー ,ハワード・ウェイナー 出版社:青土社 発売日:2021-10-26 コロナ禍で、新規感染者数やワクチン接種者数の推移グラフを世界中の人々が毎日のように眺め、喧々囂々議論するようになった。 これまでどのように推移し、この先どうなるのか。自国と海外を比べると、どのような違いがあるのか。問題が切実であるほど、一目で状況を理解できるグラフは頼りになる。過去を知り、未来を予測し、そして今何をすべきかを推し量るヒントとして、グラフは雄弁で、有能だ。 書は、今やすっかり一般的になった「データ視覚化(data visualization)」の発展の概要を、その長い歴史とともに綴った一冊である。 この「歴史とともに」という点が重要だ。必要は発明の母とはよく言ったものだが、数値や言葉を並べただけの単なる表よりも便利な「データ視覚化」の手法は、どんな時代に生み出されたのか。そし

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    HONZ 2021/12/04
  • 『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』当たり前の不可思議さ、身近なものの奥深さ - HONZ

    『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』当たり前の不可思議さ、身近なものの奥深さ は速く読めるにこしたことはないと思っている。だが久しぶりに、1日1章のペースでじっくりと味わいたい1冊が現れた。人体のあらゆるパーツをさまざまな角度から語り尽くし、徹底的に不思議を思議する。一見、当たり前のことほど驚きは深く、身近なものほど奥が深い。こういう感覚を何日にもわたって感じることができるのは、まさに至福だ。 著者はビル・ブライソン。これまで数々の秀作を手掛けたノンフィクションの名手が今回挑んだテーマは人体。書は、「なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか」という疑問にとことん迫る1冊だ。 皮膚から脳、心臓、そして下半身まで全23章におよぶ書の視点は、多様にして縦横無尽だ。話題への切り込み方からしてひと味違う。例えば微生物について書かれた第3章。「深く息を吸

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    HONZ 2021/10/30
  • 『猫が30歳まで生きる日』ネコの寿命が2倍に? 「偶然」から活路を見いだす - HONZ

    ネコ好きの人はもちろん、そうでない人にとっても朗報だ。ネコを飼った経験のある方はご存じかもしれないが、ほとんどのネコは老齢になると腎臓病にかかり、その多くは長く苦しんだ末に死んでしまう。しかし今、この腎臓病を治すための研究が進んでいるという。 もしこれが実現すれば、ネコの寿命は現在の2倍、30歳程度まで延びる可能性がある。それだけでなく、ネコを対象としたこの研究の成果により、ヒトの病気の治療にも明るい展望が開け始めているのだ。 書では、これまでの医療では「治せない」といわれてきた病気を治すことができる分子「AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)」の発見と、それを実際の医療に活かすための研究の過程がきわめてわかりやすく紹介されている。 そもそもAIMとは何か。ひと言でいうと血液の中に数多く存在するタンパク質の一種である。その役割は長いこと不明だったが、

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    HONZ 2021/09/23
  • 『コード・ガールズ 日独の暗号を解き明かした女性たち』を読む - HONZ

    わたしはサイモン・シンの『暗号解読』を訳した関係で、暗号まわりのことは多少知っているつもりでした。第二次世界大戦期についていえば、ナチスドイツの暗号であるエニグマはもちろんのこと、解読不能な天然の暗号として使われたナヴァホ語、そしてナヴァホ族の兵士である「ウィンドトーカー」たちのことも。ウィンドトーカーの存在も戦後しばらくは知られていませんでしたが、たしか1980年代には、子ども向けの人形、GIジョーのシリーズにも「ウィンドトーカー人形」が加わって、周知されることになったはずです。 ですが、この『コード・ガールズ』に書かれた若き女性たちの活躍のことは、これまでわたしも知らなかったです。もう、書は知らないことばっかりでびっくり! 彼女たちは、戦後になっても、大戦中の自分たちの貢献を認めてもらおうとは全然しなかったし、今日に至るも(存命者は今もいます)、職場を離れたら口にしてはいけないとされ

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    HONZ 2021/08/22
  • 『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』まず自分の靴を脱ぐこと 足元から世界を変えていく - HONZ

    著者が今、最も旬な書き手であることを確信させられる一冊だ。世界を覆う社会的なテーマを生活者として語り、解決のヒントを暮らしの中に見出す。そのスタンスや主張は数年前からさほど変わらないはずだが、時代が追いついてきた印象もある。 ブレイディみかこ氏が作で選んだテーマは「エンパシー」。これは他者の感情や経験などを理解する「能力」を指す。エンパシーは「意識的に他者の立場で想像する作業」すなわち「他者のを履く」試みでもあり、その点で、共鳴する相手やかわいそうに思う相手に向けて心の内側から湧いてくる「シンパシー」と異なる。そして、能力であるエンパシーは、訓練によって向上させることができる。 書では、この抽象的な概念が身近なトピックを通じて語られ、骨太なテーマへと昇華されている。エンパシーはどのようにすれば向上させられるのか、優秀な女性指導者とエンパシーに関係はあるのか、サイコパスとエンパシーの関

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    HONZ 2021/08/21
  • あの「魔法」にもういちど触れたい!『シェフたちのコロナ禍』 - HONZ

    昔から家で酒は飲まない。宅飲みを愛する人も多いが、自分の場合は家で飲んでも楽しめないのである。楽しく酔えればどこで飲もうと関係ないのだろうが、幸か不幸かアルコールには強い体質だ。だから家だと延々飲み続けることになる。だったら家で飲むのは別にお茶でいいじゃないかと思ってしまうのだ。 外で酒を飲む理由はただひとつ。会いたい人に会うためである。 といっても人目をしのぶ密会などではない。好きな店の料理人やスタッフの顔を見に行くのだ。仕事帰りに立ち寄るお気に入りの店がいくつもある。一日の終わりにそうした店で過ごす時間はかけがえのないものだ。そんな大切な時間が失われて、もうずいぶんたつ。 書は、東京で初めての緊急事態宣言が出された際に、料理人たちが未経験の事態とどう向き合ったかをまとめたものだ。ご存知のように緊急事態宣言はその後何度も繰り返されている。「いまさら最初の緊急事態宣言の時の話なんて読む意

    あの「魔法」にもういちど触れたい!『シェフたちのコロナ禍』 - HONZ
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    HONZ 2021/08/15
  • 『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』サイボーグになった男、「人間」の本質を語る - HONZ

    『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』サイボーグになった男、「人間」の質を語る 余計なお世話かもしれないが、書を読み終えて、あることが心配になった。このままではSFというジャンルが消滅してしまうのではないか、ということだ。 かつてはSF映画の脚めいたことを思い付いたとしても、それをフィクションとして記述するに留まったはずだ。しかし今や、あらゆることが現実に実装できる世の中になりつつある。どんな突飛なアイデアも、実装されてしまえば、ノンフィクション。現実がフィクションを凌駕することもあるのだ。 書は、愛のため科学の力で世の中のルールをぶっ壊した男の物語である。具体的には、難病と診断され余命を宣告されたロボット科学者が、制約から解き放たれるため自らの肉体を実験台にサイボーグとして生きることを決意し、その記録を綴った一冊だ。 英国のロボット科学者ピーターの人生は、

    『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』サイボーグになった男、「人間」の本質を語る - HONZ
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    HONZ 2021/07/09