ブックマーク / honz.jp (760)

  • 『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』ホールアースという名の革命 - HONZ

    「ステイ、ハングリー。ステイ、フーリッシュ。」 2005年6月12日のスタンフォード大学の卒業式でのことだった。スピーチに立ったアップル創業者のスティーブ・ジョブズが、自分は大学を早々にドロップアウトしたのだがと前置きしてから波乱に満ちた自らの人生を語り、その締めくくりとして、若い頃に最も影響を受けた「ステイ、ハングリー。ステイ、フーリッシュ。」(Stay hungry. Stay foolish.)という言葉を強い口調で繰り返し述べた。そのとき、その言葉が書かれていた「ホールアース・カタログ」(Whole Earth Catalog)というカタログ誌の存在を初めて知った人も多かったろう。 しかしそもそも、なぜハングリーでフーリッシュなのか? 当時の常識からすれば、若者は良い仕事に就いて成功して満ち足りたスクエアな生活を送るべきであり、「飢えたままでバカなまま」とは、全く逆の落ちこぼれその

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    HONZ 2023/12/18
  • 『かがくを料理する』:「サイエンス×工作×料理」のおいしい世界! - HONZ

    かがくを料理する (Make:Japan Books) 作者: 石川 繭子,石川 伸一,加賀 麗 出版社: オライリー・ジャパン 発売日: 2023/9/27 先般、東京出張の折に、はじめてHONZの朝会というものに参加しました。HONZのメンバーが原則(少なくとも今回は)ひとり一冊、今読んでいる、あるいはこれから読もうと思っているを持ち寄り、そのに対する期待やおもわく(?w)について語る会です。 で、そのときHONZレビュアーの首藤淳哉さんが、『かがくを料理する』というを持っていらしたのです。 いえね、「料理の科学」みたいな路線のなら、わたしもこれまで何冊も読んできたんですよ。でも、「かがくを料理する」ってなんだろ??? って不思議に思ったのです。今どき科学と料理を結び付けて新しいを出すのなら、分子調理(分子ガストロノミー)方面の実践的入門書かな? とわたしは思いました。(実

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    HONZ 2023/12/03
  • 『あのとき売った本、売れた本』永遠に読んでいたい「本屋の裏話」 - HONZ

    あのとき売った、売れた 作者: 小出和代 出版社: 光文社 発売日: 2023/10/25 人生でもっとも長いおつきあいの書店は、紀伊國屋書店新宿店である。かれこれ35年。つきあいが長くなれば倦怠期だってありそうなものだが、半日滞在しようが、週に何度も通おうが、いまだに飽きることがない。行くたびに発見や刺激があるのだ。こんな素晴らしい場所、他にあるだろうか。 書は新宿店で25年間にわたり文学書売り場に立ち続けた名物書店員の回想録である。とにかく楽しいだ。読んでこれほど多幸感に浸れるも珍しい。趣味の合う友人と愛読書について夜通しおしゃべりしているような楽しさがある。懐かしい、記憶に残るフェアや売り場の話がこれでもかと出てくるのだから当然かもしれない。 1日の平均乗降客数353万人の新宿駅は、ギネスにも世界最多と認定されるほどのマンモス駅だ。そんな駅の駅前に店をかまえていれば、

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    HONZ 2023/11/28
  • 『自衛隊の闇組織』「別班」は実在する! - HONZ

    TBSのドラマ『VIVANT』が話題だ。我が家もドはまりしていて家族は毎週考察に夢中である。主人公の乃木憂助は自衛隊の裏の組織「別班」の工作員だったが、その後テロ組織の一員となった。「潜入」なのか「転向」なのかはいまのところ不明だが、予測を裏切る脚が売りなので、この先もあっと驚く展開が用意されているのかもしれない。 さて、設定が自衛隊の秘密部隊ともなると、当然のことながら家族からこんな疑問の声があがる。 「“別班”って当にあるの?」 「あるよ」即答したら、「え―――っ!?」と大興奮。そこで別班の成り立ちや任務、公安との違いなどを解説してやると、子供たちは珍しく尊敬の眼差しである。それだけではない。日頃、掃除機での山を突き崩す嫌がらせを繰り返すまでもが感心しているではないか。ひさびさに父親の面目を保てた気分だが、実は解説のほとんどが書の受け売りだというのは秘密である。もっともドラマ

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    HONZ 2023/09/08
  • 我々は今後数十年間でどこへ移動していくのか?──『気候崩壊後の人類大移動』 - HONZ

    夏真っ盛りの8月下旬だが、とにかく毎日暑すぎる。昼外にちょっとご飯を買いにいくだけで殺人的な太陽に体を焼かれ、数分後に家に帰ってきたときには命の危険を覚えている。それぐらいに毎日暑いし、間違いなく毎年夏は暑くなっている。 とはいえ、こんなにも毎日暑い理由ははっきりしている。気候変動、地球温暖化だ。これによって地球の温度が実際に少しずつ増しているせいだ。30年前と比べて、世界各地で気温が50℃を超える日はなんと2倍になった。そして、多くの国々、企業が地球温暖化をい止めようとしているが、しばらくは止まらないとみられている。 その場合何が起こるのかといえば、猛暑やハリケーンによる災害、乾燥地帯が増えることによる火事の増加、沿岸地域の水没などである。特に水没は厄介だ。そうなれば、住んでいた場所を離れ、別の場所へと移住を強いられる人々も出てくる。 書『気候崩壊後の人類大移動』は、そうした「人類大

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    HONZ 2023/08/26
  • 『イラク水滸伝』謎の湿地帯をめぐる圧巻のノンフィクション! - HONZ

    書を手に取った人は幸せである。なにしろ世界初の報告をいち早く日語で読むことができるのだから。それも公的機関がまとめたような無味乾燥な調査レポートではなく、抱腹絶倒の冒険譚として読める。これはもう何を措いても読むしかない一冊だ。 イラクに〈アフワール〉と呼ばれる湿地帯がある。ティグリス川とユーフラテス川の合流地点付近にひろがる湿地帯で、かつては日の四国を上回るほどの面積があったという。 この地は昔から戦争に負けた者や迫害されたマイノリティ、犯罪者などが逃げ込むアジール(避難所)で、権力者も手が出せない場所だった。湿地帯は高さ8メートルにも及ぶ葦が生い茂り、その中を迷路のように入り組んだ水路が通る。これでは軍勢も手が出せない。 それゆえアフワールは1990年代までは反フセイン勢力の抵抗の拠点でもあった。怒ったフセインはティグリス川とユーフラテス川に堰を築き、湿地帯に流れ込む水を堰き止めた

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    HONZ 2023/08/14
  • 『なぜヴィーガンか?』 シンプルな論理とそれが人びとに与えた影響 - HONZ

    読むたびに思う。ピーター・シンガーの論理はシンプルで、それゆえに強力だ。シンガーの論理に異を唱えようとすると、その反論のほうが小手先の屁理屈のように聞こえてしまう場合も少なくない。そして、シンガーの論理は強力であると同時に、そこから帰結する内容が厳しくもある。シンガーの論理を反駁できないならば、またそれを頭で理解したならば、わたしたちは自らの生き方を変えなければならないはずである。 書は、哲学者ピーター・シンガーの肉に関する論考を集めたものである。シンガーは、「動物解放論」の代表的論者であり、1970年頃から菜主義を実践している。そして、後で紹介するように、その論理によって多くの人たちの生き方を実際に変えてきた人物でもある。 そのタイトルどおり、書はなぜ肉を控えるべきかを説いている。シンガーによれば、そのおもな理由は3つある。すなわち、(1) 動物への配慮、(2) 気候変動の問題

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    HONZ 2023/08/04
  • 日本の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 - HONZ

    の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 この『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』は、英国人記者が語る日の競輪論である。日でどのように競輪が生まれ、育ち、危機を乗り越え、そして日ならではの独特な魅力はどこにあるのか、それを一冊を通して語り尽くしていく。 それにしても、なぜ英国人記者が日の競輪を語っているんだと疑問に思うかもしれない。その理由は簡単で、著者のジャスティン・マッカリーは日研究で修士号を取得し、読売新聞で編集者や記者として活躍。その後ガーディアンに入社し日特派員として活動する、日在住歴が30年にも及び、同時に競輪の熱狂的ファンだからだ。 書の「はじめに」は2017年に平塚競輪場で行われた日競輪最高峰のレースKEIRINグランプリの描写からはじまるが、その熱量ある文章は競輪

    日本の競輪、その特殊性と、だからこその魅力についてを英国人記者が語る──『KEIRIN: 車輪の上のサムライ・ワールド』 - HONZ
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    HONZ 2023/07/25
  • 『明治 大正 昭和 化け込み婦人記者奮闘記』化け込み=潜入取材ルポ 型破りな女性記者たちの物語 - HONZ

    2022年度の新聞・通信社における女性記者の割合は男性の4分の1弱である(一般社団法人日新聞協会調べ)。放送業界は多少マシな気もするが、それでもメディアが圧倒的に男性中心であることは変わらない。現代ですらそんな体たらくなのだから、戦前なんて推して知るべし。女性記者(当時は「婦人記者」といった)は各社片手で数えられるほどしかいなかった。 婦人記者という新たな職業が生まれたのは、明治20年代だという。女性読者の増加に伴い、女性向けの記事が求められ、東京や大阪の有力新聞が女性を採用するようになった。 とはいえ、のっけから婦人記者が活躍できたわけではない。女性向けの記事といっても、アイロンのかけ方、シミの抜き方といった家政記事か、政治家や実業家のお宅に赴き、奥様方に普段の生活や子どもの教育法などについてインタビューする名流婦人訪問記などがメインだった。 「号外に 関係のない 婦人記者」と当時の川

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    HONZ 2023/06/29
  • 科学はいまだに法律に導入されない 『人を動かすルールをつくる──行動法学の冒険』 - HONZ

    作者: ベンヤミン・ファン・ロイ,アダム・ファイン 出版社: みすず書房 発売日: 2023/5/18 わたしたちは法律や条例などのルールに囲まれて生きている。そして、それらの多くがわたしたちを深刻な危害から守ってくれていることは間違いない。だがその一方で、何らかの理由でルールがうまく機能していない場合も少なくない。ほとんどのドライバーが守っていない、ある道路での速度制限。日々新たに報じられる、企業のコンプライアンス違反。では、そうした一部のルールがあまり守られないのはどうしてだろうか。 書はその問題に真正面から挑んだものである。ただし、その挑み方は従来のものとは異なる。書は、「どうして人はルールを守らないのか」と問うたりはしない。そうではなく、人に一定の行動傾向があることを前提として、「どうして法的ルールは人の行動を改善できないのか」と考えるのである。 わたしたちには一定の行動パター

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    HONZ 2023/06/28
  • 『土偶を読むを読む』縄文研究の最前線を伝える、肝の据わったまたとない反論本 - HONZ

    作者: 望月 昭秀,小久保拓也,山田 康弘,佐々木 由香,山科 哲,白鳥兄弟,松井 実,金子 昭彦,吉田 泰幸,菅 豊 出版社: 文学通信 発売日: 2023/4/28 今やあまりお目にかかれない書籍が出た。書は、2021年4月に出版された竹倉史人『土偶を読む』(晶文社)への反論である。それも、明確な事実と論拠に基づいて真っ向からメッタ斬りにする、恐ろしく肝の据わった一冊だ。 まず、当時の『土偶を読む』現象をおさらいしよう。同書は刊行直後からNHKを中心とする各メディアで注目を集め、SNSでも紹介記事や書評が大きくバズり、脚光を浴びた。人類学者が独自の見識から打ち立てた「土偶の正体は縄文人の用植物」説をイコノロジー(図像解釈学)で次々に解き明かしていくその内容は劇的かつ鮮やかで、養老孟司氏を始めとする著名人らの好評も後押しし、半年で六刷のベストセラーとなる。 極めつきは第43回サント

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    HONZ 2023/06/21
  • え?日本語ってこんなに前のめりな言葉やったんか! 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』 - HONZ

    え?日語ってこんなに前のめりな言葉やったんか! 『会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか』 言語がどのように生まれたかに興味を持つ人は多いのではないか。なによりも人間を人間たらしめている大きな理由のひとつは言語なのだから、当然のことだろう。すこし前に書評を書いた『言語はこうして生まれる:「即興する脳」とジェスチャーゲーム』は、そのあたりを論じたである。 周囲の人に何かを伝えるために言語が生まれた。最初から単語、ましてや文法があった訳ではない。まずはジェスチャーゲームのようなものから言語の体系が生まれてきたのではないかというのが、『言語はこうして生まれる』の内容だ。すべての言語に共通する「普遍文法」を理解する能力が遺伝的に備わっているという、あのチョムスキーの「生成文法」理論に真っ向から刃向かう考えで、たいそう面白かった。 言語の「自然発生」を考えれば、この説の方が正しそうで

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    HONZ 2023/05/28
  • 『眠りつづける少女たち』 集団発生する〈謎の病〉の原因とは - HONZ

    スウェーデンのある地域でのこと。小学校低学年から10代後半までの子どもたちに、〈謎の病〉が発生している。子どもたちは最初、不安になりふさぎ込む。そして徐々に引きこもりはじめ、口数が減っていき、そのうちまったく話さなくなる。最後にはベッドで寝たきりとなり、最悪の場合、べもしなければ目も開かなくなってしまう。そうした子どもたちの数は、2015年から2016年の間だけでも、なんと169人に達している。「あきらめ症候群」と呼ばれるこの病は、では、どうして発生しているのだろうか。 書は、そのような〈謎の病〉の原因を神経科医が追ったものである。扱われているのはあきらめ症候群だけではない。カザフスタンのかつての鉱山町で発生した「眠り病」(第3章)や、キューバ駐在のアメリカ外交官の間で流行した「ハバナ症候群」(第5章)など、8つの章でおもに7つの病がとりあげられている。著者のオサリバンは、関係者へのイ

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    HONZ 2023/05/25
  • 『アナロジア AIの次に来るもの』アナログ王国序説ーーデジタルを超えた次の時代を読む方法 - HONZ

    始まったばかりだと思っていた21世紀も、気がつけばすでに1/4が経過しようとしているが、われわれが未来の象徴のように思っていた「新世紀」は、9.11のテロで幕を開け、リーマンショック、3.11の未曾有の災害と続き、挙句の果ては新型コロナという感染症の流行と前世紀の冷戦の影を引きずるようなウクライナ戦争の勃発で先が見えない。 その一方でデジタル化やネット化が確実に進行し、スマホやSNSが広く社会に普及し続け、AI将棋や囲碁で人間の世界チャンピオンを打ち負かし、ついには誰もが、絵を描いてくれたり、ChatGPTのようなどんな質問にも卒なく答えてくれたりするAIソフトを自由に使えるようになり、コンピューターの能力が人間の知力を上回るとされる「シンギュラリティー」がもうすぐ実現するという声も聞かれる。 多くの人にとって、こうした「デジタル」が象徴するイメージは、AI仕事が奪われるという悲観論は

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    HONZ 2023/05/22
  • 『ルポ ゲーム条例』報道の最前線は地方にある - HONZ

    は「課題先進国」と言われるが、この言葉はいささか焦点がぼやけている。なぜなら、国の課題や社会のひずみは、まず地方にこそ現れるからだ。課題を先取りしているのは国よりもむしろ地方である。 地方はまたジャーナリズムの先進地域でもある。中央のマスコミがくだらないプライドの上にあぐらをかいている間に、彼らは最先端の課題と格闘してきた。だから骨太の報道は、しばしば地方から現れる。 書は、地方議会で成立したひとつの条例を地元放送局の記者が約3年にわたり追いかけた記録である。地方に現れたおかしな兆候にいち早く気づき、仔細に検証することで、社会全体に共通する問題点を浮き彫りにすることは、地域に根ざした記者にしかできない。社会の深刻な課題と地方メディアの矜持。その両方を知ることができる好著だ。 2020年3月18日、香川県議会で全国初の条例が可決、成立した。 その名は「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例

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    HONZ 2023/05/12
  • 『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』誰の心の中にも、フロンティアがある - HONZ

    2023年3月、プロ野球・北海道ハムファイターズの拠地としてエスコンフィールド北海道が開業したことは多くの人に知られているところだろう。 拠地が借家であることの限界を感じていた日ハムファイターズは、数年前に札幌ドームを出ることを決め、札幌市と北広島市の誘致合戦が繰り広げられた結果、北広島市に新しいスタジアムを建設することが決定した。書はその開業にいたるまでのプロセスを余すところなく描いた一冊である。 結末がどうなるか、誰もが知っているはずのストーリーではある。それでも前作『嫌われた監督』で落合博満の知られざる一面を描き出した著者の鈴木忠平は、当事者たちの心の内面に迫っていくことで、ぐいぐいと読書の心を鷲掴みにしていく。 役者が揃いすぎている、そう思えるほど書には魅力的な人物が数多く登場するが、主人公は紛れもなく北海道ハムファイターズの事業統括部長・前沢 賢氏である。 年

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    HONZ 2023/05/08
  • 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』書けなくなった批評家を救ったもの - HONZ

    ひさしぶりに会った知人の変貌ぶりにショックを受けることがある。書を書店で見かけた時の驚きもそれに近い。表紙の男性と著者名が一瞬つながらず、人だと気づいて衝撃を受けた。別人のように痩せている。それも何か大病を患ったことをうかがわせるような痩せ方ではないか。 90年代からゼロ年代を通じた福田和也の活躍ぶりは、まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」という言葉がぴったりだった。「月300枚書く」と人が言っていたように、文芸評論や時事評論、エッセイ、コラムを書きまくり、ワイドショーのレギュラーコメンテーターを務め、文芸誌『en-taxi』を編集し、母校である慶應大学の教壇にも立った。当時、夜の街でもしばしば著者を見かけた。バリバリ仕事をしつつ遊びもこなす姿が眩しかった。 著者を知ったのは学生時代のことだ。江藤淳に才能を見出されたというふれこみで、雑誌『諸君!』でいきなり連載が始まった。破格の扱いだった。

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    HONZ 2023/05/07
  • 『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 - HONZ

    『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』 一見、ライトノベルを思わせるタイトルだが、書は紛れもない実話である。ただし著者の半生は、まるでラノベの主人公のようにユニークだ。 著者は1992年千葉県生まれ。昔からどこまでも内向的で、考えすぎる人間だったという。そんな性格もあってか、大学受験や恋愛、就活の失敗などで心を壊し、大学を卒業した2015年からは、千葉の実家で引きこもり生活に突入。週一でバイトは続けていたが、それもコロナでなくなってしまい、さらに追い討ちをかけるように2021年からはクローン病という自己免疫系疾患の難病も患う。 驚くのはここからである。著者は引きこもりのかたわら、ルーマニア語を身につけ、2019年から小説や詩を書き始めた。その作品は現地の文芸誌に掲載されただけでなく、《Istoria literaturi

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    HONZ 2023/03/18
  • 『黒い海 』 海の『エルピス』調査報道が明らかにする未解決事件の「真実」 - HONZ

    興奮冷めやらぬままこれを書いている。すごいノンフィクションを読んだ。大晦日に読み始め、気がついたら年が明けていた。このは読み始めたら途中で止めることができない。 ある未解決事件の謎に単身挑んだジャーナリストが、ファクトを丹念に積み上げ、真相に迫る。ところが、あらゆる可能性を吟味し、これしかないという仮説に辿り着くが、国の調査結果はこれを否定するものだった。目の前に機密の高い壁が立ちはだかる。明らかに国は何かを隠しているのに、その先に進むことができない……。迫力ある一冊だ。これが初めての単著というから驚く。デビュー作にしてこれほどの傑作というのは、近年記憶にない。 著者が挑んだのは、日の重大海難事件史上、まれにみる未解決事件である。2008年6月23日、第58寿和(すわ)丸は、千葉県銚子沖にいた。犬吠埼から東へ約350キロの太平洋上である。船員は20名。この朝はカツオの群れを追って操業し

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    HONZ 2023/01/05
  • 2022年 今年の一冊 - HONZ HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

    HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊、今年で12回目を迎えるところとなりました。メンバーそれぞれが好きなを、好きなタイミングで送ってくるので、毎回順番をどうしようかと頭を悩ませます…。今年は12回目を記念し(?)、基に立ち返って名字を五十音順に並べてみました。 最大勢力となったのはア行とナ行。ア行が「うんこ→肉→防災アプリ→なめらかな社会→銀河文字」と美しき旋律を奏でれば、ナ行も負けじと「川口浩→介護→フロイト→金玉→いい子症候群」と華麗にビート刻む。それぞれ一人ずつしかいなかったマ行・ワ行も、来年は仲間集めに勤しむことだろう。 そんなわけで今年も、メンバーそれぞれの「今年最も○○な一冊」を紹介していきます。 アーヤ藍  今年最も「旅にぴったりだった」一冊 今年はコロナ禍以来はじめて海外に飛んだ。久しぶりすぎてパスポートの期限が切れていることに直前まで気づかなかったほど、旅の感覚が鈍

    2022年 今年の一冊 - HONZ HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!
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    HONZ 2022/12/30