「この世界の片隅に」 双葉社 ACTION COMICS 上・中・下巻 こうの史代 映画「紙屋悦子の青春」は戦時下の鹿児島を舞台にした悦子の青春の一ページを淡々と綴った作品である。元々舞台として編まれた原作ゆえに、映画も屋内のセットを中心にキャラクターの対話が当時の世相を暗示させつつ、悦子が置かれている状況を説明していく。派手な演出も印象強い音響もあるわけではない。普通の日常を普通に描くことに徹したかのような映像。知らない人とこれからお見合いをする悦子(原田知世)と相手の青年(永瀬正敏)の様子がユーモアたっぷりに描かれる。けれども、戦争の影が消えることはない。「配給」や「沖縄」といった言葉がセリフの端々に加えられていく度に、観客は、今から見れば決してきらびやかなものではないかもしれない悦子の青春に、これが当時の一つの恋愛の形だったのだろうかと考えさせられる。 こうの史代「この世界