苦悩を抱えた晩年10年間 昨年9月にノンフィクション作家の佐野眞一が亡くなりました。私は佐野とは対談をしたことがあり、多少のつき合いもありました。その40年以上にわたる作家生活の前期に書かれた『遠い「山びこ」ー無着成恭と教え子たちの四十年』(1992年)や『旅する巨人ー宮本常一と渋沢敬三』(1996年)を、刊行当時、私は印象深く読んで、人間を通して戦後日本に迫ろうとする、力量のある書き手だなと感じていました。 その後、佐野は、『東電OL殺人事件』、『阿片王ー満州の夜と霧』、『あんぽんー孫正義伝』など、続々と話題作を刊行していきます。「昭和史」というホームグラウンドで地味な仕事を続けてきた私には、佐野が出版社の要請に限界を越えて応えようとしているようにも映り、拠点となるホームグラウンドを築いたほうがいいのではないかとも思いました。 一方で、旺盛な執筆力を驚嘆の眼差しで見ていたことも確かで、佐