おつきあいのある会社に雑種の大きな犬がいた。こんにちは、といって玄関を開けると、はっはっはっと息を切らして事務所の奥から、走ってくる。 からだを脛にこすりつけながら顔をあげ、目が「撫でろ」といっている。喉元をさすり、頭を撫で、おなかをポンポンポンと叩いてあげると、来客用の椅子に飛びのり、そこですぐに眠ってしまう。 飼い主のAさんは、野良犬をつかまえ、毎晩、犬鍋にして食っているようないかつい顔の人だった。でも、顔に似合わず、ほんとうは、人も犬も大好きな人で、私もAさんのことが大好きだった。 犬は、ずっと椅子の上で眠っていたくせに、帰り際には目を覚まし、玄関先まで、はっはっはっといいながら見送りをしてくれた。振り向くとガラスのドアの向こうにきちんと座って、いつまでもこちらを向いていた。 昔、家でタロという名の雑種の犬を飼っていた。コリーの血が半端に入った鮮やかな茶色の犬で、耳と鼻のかたちの精悍