食堂の扉をひらくと、悦子は、テーブルの上に馬鹿に大きなジェロ・パイを置いて、その前にしょんぼり座っている。 「あら、めっかっちゃったわ。」 彼女は僕の姿をみると頓驚な声をあげた。そして急に活気づいてハシャギながら、これはマダムに教わった秘伝の菓子で大変ウマいのだが、絶対に僕には食べさせない、と云った。 「あなたは意地悪よ。だから、あたしもこれから意地悪にするの。……けさから作っといたんだけどなぁ。」 僕は、そんなことを云わずに、どうか食べさせてくれとたのんだ。彼女とそんなやりとりをしているうちに、だんだん眠気のさめて来た僕は、本当に空腹になった。 「ダメよ。あたしがひとりで食べちゃうの。」 「たのむ、ひと口でいいんだ。」……僕がそう云いいおわらないうちに、もう彼女は直径八インチのパイを両手で口へもって行くと、舌をチョロッと出してパイの皮からこぼれそうになっているジェロを舐めた。 「あ、……