雇用問題を冷静に考える最大の障害になっているのは「労働者は資本家に搾取される弱者で、政府が救済しなければならない」という通念だ。社会主義が崩壊した後も、この固定観念は多くの人々に共有されているが、クラークはこれを経済史の計量的な研究によって否定している。 そもそもプロレタリアートがそれほど悲惨な存在なら、なぜ産業革命の時期に農業を捨てて工場労働者になる人が急増したのだろうか。答は簡単である。プロレタリアートのほうがはるかに所得が高かったからだ。クラークのデータによれば、産業革命後のイギリスで急速な成長による収益のほとんどは、単純労働者に分配された。この理由も簡単だ。労働市場の競争が激しく、労働生産性の上昇に応じて賃金が上がったからだ。限界生産力説の教えるように、労働市場が競争的であれば賃金は労働の限界生産力に等しくなるのだ。 日本でも、終身雇用が理想で戦前の労働者はすべてかわいそうな「