私は物理学はよく知らないので、本書のひも理論(string theory)に対する批判が正しいのかどうかは判断できない。しかし専門家の書評をざっと見た限り、本書の内容が学問的にナンセンスということはないようだ。 1980年代に登場したひも理論は、最初は白眼視されていたが、そのうち理論物理学の主流になり、今ではひも理論の専門家でなければ一流大学で理論物理のポストは得られないという状態になっている。しかし提唱されてから20年以上たっても、ひも理論を検証する実験データはない。他方、理論は複雑怪奇になるばかりで、最近のバージョンでは、なんと10500種類もの異なるひも理論がありうるという。このアポリアに対する理論家の答は、人間原理である。無数の可能な宇宙の中から、人間の生存に適した宇宙だけが選ばれたのだ。なぜなら、そうでなければ人間に観測されえないからだ――という同語反復の論理(もちろん反証不可